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2019/09/08

歌劇「イル・トロヴァトーレ」

ヴェルディの中期3大傑作オペラの2つめ。メトロポリタンオペラ2015年公演のライブビューイングで鑑賞。

タイトルは「吟遊詩人」の意で、騎士で吟遊詩人のマンリーコとアラゴンの貴族ルーナ伯爵は、ともに女官レオノーラを愛する恋敵であるが(レオノーラが愛するのはマンリーコ)、実は二人は長年行き別れた兄弟であることを本人たちは知らない。ルーナ伯爵は幼い頃ジプシーに誘拐された弟の行方を長年探していて、一方、マンリーコはジプシー女アズチェーナの子供として育てられてきた。アズチェーナはかつて自分の母を先代の伯爵に火刑死させられ、その際誤って自分の子供も一緒に焼き殺してしまったことから、伯爵家に対する復讐の機会を窺っていた。

ルーナ伯爵は弟を誘拐した犯人と判明したアズチェーナと、その息子にして恋敵のマンリーコを相次いで捕らえる。レオノーラは自分の命と引き換えにマンリーコを助けようとするが、それを知って激昂したルーナ伯爵がマンリーコを処刑した瞬間、アズチェーナは「あれ(マンリーコ)はお前の弟だったのだ。母さん、復讐は果たしたよ」と叫び、弟とレオノーラを同時に失ったルーナ伯爵が茫然とするなか幕が下りる。

ああ、ややこしい(笑)。MET幕間のインタビューでアズチェーナ役のドローラ・ザジックが、「イタリアのあるレストランに希少なワインがあって、本作の複雑な筋を説明できたらもらえる」という逸話を紹介していて、「確かまだお店にあるはず」と結んでいる。何もここまでややこしい筋にしなくてもいいようなものだが、復讐とか呪いとか三角関係というのはオペラに欠かせない道具立てで、それらを欠かさず盛り込んだ本作はオペラの中のオペラと言えるのかもしれない。

ヴェルディの音楽が素晴らしいことは言うまでもない。全篇華麗な歌また歌の連続で全く飽きさせることがない。このMET公演では、何といってもレオノーラ役のアンナ・ネトレプコが圧巻の歌唱で聴衆を魅了しているし、脳腫瘍で闘病中だったディミトリ・ホヴォロストフスキーがルーナ伯爵を熱演、影の主役とも言うべきアズチェーナ役を25年前のMETデビュー以来演じてきたザジックはさすがの貫禄を見せている。タイトルロールはヨンフン・リーというおそらく韓国出身のテノールで、線は細いながらもよく伸びる高音で健闘していた。

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