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2019/08/30

リヒャルト・シュトラウス管弦楽曲全集

Straussこれも英EMIのボックスセットで、1970年代前半にルドルフ・ケンペがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮した、名盤の誉れ高い録音。「管弦楽曲全集」とあるけれど、ホルン協奏曲など独奏楽器と管弦楽のための作品も網羅している。曲目など詳しくはこちら

通して聴いてみて強く感じたのは、シュトラウス作品の驚くべき多様性である。キューブリックのおかげで有名となった「ツァラトゥストラ」に代表されるように、シュトラウスというと大編成のオーケストラによる音の洪水をイメージしがちだが、「町人貴族」や「クープランのハープシコード曲による舞踏組曲」などは、新古典を通り越して新バロックとも言うべきシンプルな音楽で、とても同じ作曲者の作品とは思えない。晩年の「メタモルフォーゼン」は23の独奏弦楽器のために書かれ、それだけの楽器でも作曲者の思いを十二分に表現し得ている。

作風的にみても、初期のヴァイオリン協奏曲やホルン協奏曲第1番はまだ後期ロマン派の範疇に収まっているが、そうした基礎の上に彼独自の音楽語法を次第に確立し、「ドン・ファン」や「ティル・オイレンシュピーゲル」といった傑作交響詩を次々と生み出していく。管弦楽法の多彩さは他に類を見ないほどで、「ドン・キホーテ」では羊の群れが鳴き、主人公が空を飛ぶ。「アルプス交響曲」はまるで一篇のドキュメンタリー映画を観ているようである。

ただ、この「アルプス交響曲」は元々は副題で、出版直前まで「アンチクリスト(反キリスト者)」という標題で作曲が進められたという経緯があり、「ツァラトゥストラ」とともにニーチェの思想が影響しているという、金子建志氏による解説がある。先日書いた「タンホイザー」もカトリック批判に通じる内容を含んでいるが、アルプス交響曲の「狩りの動機」はそれを踏まえていることの証左であるという。大変興味深い指摘である。

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