ズスケQのベートーヴェン弦楽四重奏曲全集
先日、アルバンベルク四重奏団によるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集を聴き終えたあと、彼のカルテットでなぜかうちに1枚だけあった第15番のLP盤を引っ張り出して聴いてみた。演奏は Suske-Quartett, Berlin 。ズスケ四重奏団ともベルリン四重奏団とも表記されるが、正確にはベルリン・ズスケ四重奏団と言うべきだろう。
それはともかく、改めて聴いてみて、アルバンベルクQの演奏とは全然違うのに驚いた。まず、音色的な面から言えば、華やかで艶のあるベルクQの音とは対照的に、ズスケQは燻し銀のような落ち着いた味わいである。器に例えれば、前者が光沢のある漆塗りの椀だとすれば、後者は木目を生かした白木の椀とでも言おうか。もちろん、工芸品としての素晴らしさは甲乙つけがたい。
それ以上に興味深いのが、演奏のスタイルというかアプローチの仕方の違いである。ベルクQが4人のソリストが時には丁々発止と繰り広げる「掛け合い」であるのに対して、ズスケQはもっと精緻で求心力の強いアプローチであり、あらかじめ曲の全体像を4人が完全に理解し共有した上で、各奏者はそれを構成するパーツとなって参加しているのである。
リーダー役の第1ヴァイオリンですら例外ではなく、ベルクQのギュンター・ピヒラーが、時にソリストのようにメリハリをつけた演奏をしてメンバーを引っ張るのに対し、カール・ズスケは他の奏者と同様、あくまでひとつのパートを担っているに過ぎないというスタンスを貫き、出過ぎることも埋もれることもない絶妙のバランスを保つ。
好みもあるだろうが、繰り返し聴いて飽きないのはズスケ盤の方ではないかと思う。それで、第15番も含め全曲のCDを入手して聴いてみた。前述のアプローチは全曲を通して共通で、とりわけ後期の曲ではそれが非常に有効に作用しているのを感じた。録音も極めて優秀で、どうやらこちらの方が今後の愛聴盤になりそうである。
なお、このカルテットは1965年、当時シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)の首席コンサートマスターであり、すでにカルテットの経験もあったカール・ズスケが、同楽団の首席たちであるクラウス・ペータース、カール=ハインツ・ドムス、マティアス・プフェンダーの3人と組んで結成され、67年にはベートーヴェンの弦楽四重奏曲の録音を開始した。その後、リーダーのズスケがベルリンからライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団にコンサート・マスターとして移ることになり、カルテットの日常的な活動は困難になったが、ベートーヴェンの録音は特別に同じ顔ぶれによって継続され、80年に至ってついに全曲の録音が完了した。
実に14年の歳月をかけて録音されたことになるが、すべてドレスデン・聖ルカ教会で収録され、ドイツ・シャルプラッテンレーベルから発売された。余談ながら、ラズモフスキー第3番の冒頭、ルカ教会の近くで囀る小鳥の声が僅かに混入してしまっている。最初は我が家の外の鳥かと思ったが、何度聴いても同じタイミングで入るので間違いない。録音技師は気がつかなかったのだろうか。まあ、鑑賞の邪魔になるほどではないけれど。(笑)
5月23日 ジョグ11キロ
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