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2019/03/16

シュミット=イッセルシュテットのベートーヴェン交響曲全集

Uccd7053昨年秋にドホナーニ指揮クリーヴランド管による全集を聴いたが、今度はさらに時代を遡って、1960年代後半に収録された、ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーンフィルによる全集を通して聴いてみた。このコンビの「田園」は、自分にとっての「刷り込み盤」というか、いまだこれ以上の演奏に接したことがないくらいの名演だが、それと第九以外の交響曲は聴いたことがなかったのだ。

ウィーンフィルが一人の指揮者とベートーヴェンの交響曲全曲の録音をしたのは、実はこのシュミット=イッセルシュテットが初めてだったそうだ。そう言えば、EMIから出ていたフルトヴェングラーの全集盤も、第8番はストックホルムフィル、第九はかのバイロイト祝祭管との録音であった。

総体的に言うと、独墺系の伝統に根差した、正統派で模範的なベートーヴェン演奏である。しかし、決して教科書どおり四角四面の演奏というのではなく、ここぞというメロディは弦を中心に思い切り歌わせ、またメロディよりもむしろ対旋律を引き立たせたりと、ハッとさせられるような箇所も多かった。

そうした演奏は、ウィーンフィル楽員たちの自発性あってこそだろう。指揮者の統率下、一糸乱れぬアンサンブルを聴かせるというより、指揮者と楽員間の丁々発止の遣り取りはスリリングであり、いかにも生身の人間がやっているという、生命力に溢れた演奏となっている。ベートーヴェンがよく用いる con brio (生き生きと)という曲想標語は、彼の音楽の本質を突いた言葉でもあると思うが、ここで展開されているのは、まさに「con brio の音楽」なのである。

また、特筆すべきは英デッカによる録音の優秀さで、とりわけ弦楽器の艶のある音色が生々しいくらいのクオリティで再現されている。第九の終楽章、歓喜の主題が提示されるところでは、チェロとベースがはっきり聞き分けられる。ただ、入手したCD固有の問題かもしれないが、最後に録音された第7番は低音がやたらと誇張され、また雑音も多くて、今日的レベルでは鑑賞に堪えない。カップリングされた第8番が、演奏録音とも最高の出来だけに残念なことだ。

3月14日 ジョグ8キロ

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