ドホナーニのベートーヴェン交響曲全集
以前にNHK-FMで第8番の演奏を聴いて興味を抱いた、ドホナーニ指揮によるベートーヴェンの交響曲。遠路はるばるロンドンから全集盤を入手し、通して聴いてみた。テラークの再発売廉価盤で、2枚組×3セット、EVERYBODY'S BEETHOVEN というタイトルが付されている。
管弦楽はクリーヴランド管弦楽団。第9の合唱は同合唱団(指揮ロバート・ペイジ)、独唱者はキャロル・ヴァネス(S)、ジャニス・テイラー(Ms)、ジークフリート・ジェルサレム(T)およびロバート・ロイド(B)である。1983年から1988年にかけて、クリーヴランド管弦楽団の新旧の本拠、セヴェランスホールおよびマソニック・オーディトリアムで収録されている。
演奏は基本的に速めのテンポで、前へ前へと力強い推進力をもって進行し、剛毅にして快活な、とても男性的な演奏と言って良かろう。それは、一般的には優美とされる偶数番の交響曲でも同様で、とりわけ第4番のこれほど力感に溢れた演奏はあまり経験がない。「2人の巨人に挟まれたギリシャの乙女」というシューマンの形容が的外れにすら思えるほどだ。
ただし、第6番「田園」だけは、そういった表現がそぐわず、特に第1楽章は最後までどこか落ち着きがない。田舎に着いた安らぎどころか、もう都会に帰りたいと言っているかのようだ(笑)。第2楽章以下はサラリとした味わいでそれなりに聴かせるだけに惜しい。
それ以外はどれも素晴らしい。とりわけ第1番や第2番といった初期の交響曲にも、後期のそれに劣らぬ深みとスケールが感じられ、なかなかの名盤であると思う。ブラームスの交響曲全集もそうだが、アメリカの楽団というだけであまり顧みられることがないのは残念だ。
テラークによる優秀な録音も魅力だ。比較的各楽器に近い位置で録っていると思われるが、その明瞭な音が全体として見事に調和しているところが素晴らしい。第8番第2楽章の例のバスの音型も、テラークでなければ十分聴き取れなかったのではないか。
ところで、その第8番のような「意外な発見」も期待しながら聴いたが、わずかに1つだけ、これまで知らなかった(気付かなかった)箇所を発見した。第5番第1楽章の473~475小節にかけてのホルンである。倍の四分音符ではあるが、見事に「運命の動機」になっていて、ドホナーニ盤ではこれが強調されて浮かび上がっている。
421~423小節にも同じような音型があるが、こちらはやや控えめで、最初は気がつかなかった。
例によって手持ちの他のLP、CDをチェックしてみたが、何とセル指揮クリーヴランド管の1963年の録音が、比較的明瞭にこれらの音型が分かる。これまでは漫然と聴き流していたのだ。またチコちゃんに叱られる(笑)。そう言えば、セルの全集でも「田園」だけは何度聴いてもピンと来ないが、クリーヴランドの伝統なのか、それともドホナーニがセルの影響を受けたのだろうか。
11月12、14日 ジョグ10キロ
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