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2018/05/13

『アイ'ム ホーム 覗く男』

Wakefield2016年、米。日本では劇場未公開。ブライアン・クランストン、ジェニファー・ガーナー他。WOWOWの紹介文。

弁護士ハワードはニューヨーク郊外の自宅に戻る途中、電車が停電で止まり、帰宅が遅れる。偶然、ガレージの屋根裏部屋に入り込んだ彼はそこで眠ってしまうが、翌朝目を覚まし、最近仲が悪かった妻ダイアナが、自分が浮気をしていると誤解することを恐れて家に戻れなくなる。さらに、そのまま屋根裏部屋から家族を観察することが楽しみになった彼は、近所で残飯を探してはそれを食べ、ずっと屋根裏部屋で暮らし続けるようになり…。(引用終わり)

春先からクリスマスまで、およそ1年弱に及ぶ主人公の異常な隠遁生活の顛末を描く。変態、悪趣味、性格異常…。普通の常識からすれば彼の行動はそう形容するしかなく、特に女性から不評を買うことは間違いないが、「もし…だったら」という設定の面白さは秀逸で、極論すれば本作の価値はそこだけにある。

最初のうちはすっかり取り乱し、時にはひとり涙を浮かべる妻の姿に、主人公はあるいは留飲を下げ、あるいは慙愧の念を覚えたりするが、夫の不在が長引くにつれ妻は次第にその生活にも慣れ、例年どおり夏のバケーションに出かけたり、ハロウィーンやクリスマスなど年中行事を楽しんでいる。

以下、若干ネタバレ

5月12日 LSD20キロ

自ら播いた種とはいえ、家族から隔絶された主人公は、ホームレス同然の生活を続けることになる。その過程で、自分の本当の姿を見つめ直すことが出来たり、また、偶然から始まった障害児童たちとの交流により、愛情とか慈悲の大切さを再認識する。

そのままハッピーエンドに向かうかと思いきや、最後に主人公が家に帰るのは、彼がついに心を入れ替え、思いやりある夫、理想的な父に生まれ変わろうと決意したからではない。結婚前の三角関係を巡る因縁の決着をつけるべく、妻に究極の選択をさせるためなのである。何という残酷。何という身勝手。

主人公が家に入り、邦題どおり “I'm home.” と言い、妻と娘たちが凍りついたところで、映画は唐突に終わっているが、その後の展開はきっとロクなことにならなかっただろう。その修羅場を描かないのは、まさに「言わぬが花」というものかもしれない。

主人公のエゴイズムを容赦なく描いた内容とは裏腹に、映像や音楽は洗練されていて大変美しい。特に、夫婦が結婚前によく聴いていた音楽として流れる、シューベルトの「4つの即興曲D899」の第3曲変ト長調(ピアノ、ジャン=イヴ・ティボーデ)は、心洗われるかのようである。

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