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2017/08/17

『月の満ち欠け』

283991佐藤正午著。初めての直木賞受賞作を出版した岩波書店の紹介文。

あたしは、月のように死んで、生まれ変わる――目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか?  三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! 新たな代表作の誕生は、円熟の境に達した畢竟の書き下ろし。さまよえる魂の物語は戦慄と落涙、衝撃のラストへ。(引用終わり)

「前世を記憶する子どもたち」が存在するのだという。イアン・スティーヴンソンによる同名の書物が、本書巻末に参考文献として挙げられている。俄かには信じがたいけれども、もし本当に「生まれ変わり」があるとしたら…という、一見するとSFとかファンタジーめいた作品である。

しかし、(以下、ネタバレ)

8月16日 ジョグ10キロ

しかし、内容的にはこの作家お得意の恋愛小説であり、「瑠璃」という名前の女性が3度も生まれ変わり、かつて愛した三角哲彦を追って、ついに再会するまでの長い長い遍歴を描いたものだ。実は、主人公の小山内堅もまた、今は亡き妻の梢が、かつて彼を追って上京した過去を持つこと、そして死後生まれ変わって彼の前に現れていることを知り、それが瑠璃と三角の物語と重なり合う構成は見事というしかない。

登場人物の人生が複雑に交錯するので、途中で年表を作って読み進めたのは正解だった。「瑠璃」の生まれ変わりが順序だてて把握できたからだが、それでもこの作家のこと、最後にとんでもないドンデン返しが待っているかと思いきや、意外にスンナリとほぼ予想どおりに着地した。

それに比べると、前に読んだ『鳩の撃退法』の方が、遥かに構成が複雑で、予想もつかない展開に翻弄された。作品の完成度としてはやはりそちらの方が上回り、著者自身「墓碑銘」と位置づけたのも頷ける。以前、道尾秀介が『月と蟹』で直木賞を獲ったとき、それを狙って書いたという話があるけれども、もしかすると佐藤氏も賞を意識して、本作ではあまりに複雑な構成は取らなかった可能性がある。なにせ、『鳩…』の主人公は「N木賞」を2度も受賞した作家という設定なのだから。(笑)

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