『ピエタ』
大島真寿美著。この作家は初めて。 某ブログで紹介されていて興味を持った。版元の紹介文。
18世紀、爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児を養育するピエタ慈善院で〈合奏・合唱の娘たち〉を指導していた。ある日、教え子のエミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。一枚の楽譜の謎に導かれ、物語の扉が開かれる――
史実を基に、女性たちの交流と絆を瑞々しく描きだした傑作。(引用終わり)
主要登場人物は語り手のエミーリア、彼女と同じく孤児のアンナ・マリーア(実在の人物らしい)、ピエタに出入りしていた貴族の娘ヴェロニカ、そしてコルティジャーナ(高級娼婦)のクラウディアと女性ばかり。しかも、舞台は18世紀のヴェネツィアということで、果たして物語世界に入って行けるか不安だったが、全くの杞憂に終わった。
巻末に掲載された多数の参考文献をはじめ、綿密な取材を重ねた成果であろう。ヴェネツィアの風景が、風の冷たさとか街のざわめきすら感じさせるほど見事に表現されている。そこを舞台に、生まれも育ちも全く異なる女性たちが出会い、心の交流を深め、そして別れていくまでを、冷静かつ温かい視線で丁寧に描いている。
完全に物語世界に入り込んでしまい、残りの頁が少なくなったときは、読み進むのが辛いと思ったほどである。紛失した楽譜をめぐるエピソードは最後でまたひとつ謎を生むが、全てを白日の下に晒さないことで、余韻のある読後感を残している。
作曲家のヴィヴァルディは冒頭で既に故人になってしまっているが、結果的に登場人物たちを引き合わせる役回りを演じており、影の主人公と言える存在になっている。作中で紹介されている l'estro armonico 「調和の霊感」のCDを聴きながら、この記事を書いている。まとめて聴く機会がなかったが、BGMとしても最適であることがわかった。
1月7、9日 ジョグ10キロ
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