『チャップリンとヒトラー』
『太秦ライムライト』の脚本を書いた大野裕之著。以前、NHKラジオの「著者に聞きたい本のツボ」で紹介されて興味を持ち、チャップリン映画の鑑賞と並行して読んだ。版元岩波書店の紹介文。
20世紀に最も愛された男チャップリンと最も憎まれた男ヒトラーは、わずか4日違いで生まれ、同じちょび髭がシンボルとなった。二人の才能、それぞれが背負う歴史・思想は、巨大なうねりとなって激突する。知られざる資料を駆使し、映画『独裁者』をめぐるメディア戦争の実相、現代に連なるメディア社会の課題を、スリリングに描き出す。(引用終わり)
さすがは岩波、簡にして要を得ているので、あまり付け加えることはない(笑)。映画『独裁者』の成立前史から制作過程を丹念に辿るとともに、ナチスドイツが外交ルートなどを通じてこの映画を執拗に妨害し続けた事実などが明らかにされる。
同じように新しいメディアを駆使して映画界と政界の頂点に登りつめた2人の対決は、チャップリンに軍配が上がる。映画『独裁者』の上映を機に、ヒトラーの演説は激減したのである。
ヒトラーは、イメージという武器を失い、『独裁者』によって世界中で笑い者にされたことで、リアルな戦場での敗北より先にメディアという戦場からの撤退を余儀なくされていた。(230頁)
映画『独裁者』はまた、「時代を超えて(中略)新しい人々を巻き込み続ける」(259頁)という指摘は重要である。デフレ経済から脱却できず閉塞感が漂う中、「改革」のイメージだけが叫ばれる今の日本の状況下においても同じであろう。
チャップリン側に立った記述が目立つのは仕方ないとしても、ヒトラー側の取材が不足している感は否めないが、チャップリン映画の価値を改めて評価するきっかけとなる力作と言ってよいだろう。
1月4日 ジョグ10キロ
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント