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2015/06/28

『バニシングポイント』

Vanishingpoint久々に佐藤正午作品。版元の紹介文。

タクシー運転手、経理部社員とその妻…。ありふれた生活の裏側にぴったりと張りつく、人それぞれののっぴきならない秘密。ある日突然、彼らの足元に稲妻のような亀裂が走る。普通の人々のドラマ。(引用終わり)

タイトルの「バニシングポイント」 Vanishing Point とは、遠近法で平行線が奥行方向に向かって最終的に集まる点のことを言うそうである。この連作短篇集の登場人物たちは、互いにどこかで接点を持ち、それだけで済むこともあれば、のっぴきならない関係に陥ることもある。ただ、彼らが最終的にどこか1点で集約されるのかは不明である。

あちこちに伏線が張り巡らされているようなのだが、それらが明示的には回収されないまま、また新たな伏線が乗っかっていくようで、読んでいてフラストレーションが溜まった。読み方が浅いのかもしれないが、文芸誌に3~4か月おきに掲載されていた初出時、どれだけの読者がついてこられたのだろうか。

それはともかく、こうした普通の人間たちによる群像劇の試みが、後に大長篇『鳩の撃退法』となって集大成したと言えるのかもしれない。それが証拠に、本作で「少年」として登場した倉田健次郎が、『鳩…』でも裏社会の大立者として登場しているのだ。この作家のたくらみは本当に油断ならない。

6月26~28日 休養(右踵痛)

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