『鳩の撃退法』上下
佐藤正午の新刊。上下巻計953頁の長篇作品は、アマゾンの紹介文も長篇だ。(笑)
かつての賞作家・津田伸一は、いまはとある地方都市で無店舗型性風俗店「女優倶楽部」の送迎ドライバーとして暮らしている。ある日、明け方のドーナツショップで顔見知りになった男が、その日の夜を境に妻と幼い娘ともども失踪するという事件が起きる。
家族三人の「神隠し」事件から一年と二ヶ月が過ぎた頃、以前から親しくしていた古書店の店主・房州老人の訃報とともに、津田伸一のもとへ形見のキャリーバッグが届けられた。老人が生前、持ち歩いていた愛用の鞄はしっかり鍵がかかっていて、重みもある。なんとか開錠した津田伸一の目に飛びこんできたのは、数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千枚を超える一万円札の山だった。
この老人からの遺産で、残りの人生を楽しく生きられると思ったのも束の間、行きつけの理髪店で使った最初の一枚が偽札であったことが判明する。女優倶楽部の社長によれば、偽札の出所を追っているのは警察ばかりでなく、一家三人が失踪した事件も含めて街で起きた事件には必ず関わっている裏社会の“あのひと”も目を光らせているという。まさか手もとの一万円も偽札なのか。白黒つけたい誘惑に勝てず、津田伸一は駅の券売機に紙幣を滑り込ませてみるが……。(引用終わり)
5年の歳月をこれ一本に費やして完成した長篇は、作者自身「墓碑銘にしたい」と語るほどの自信作だという。全体はかなり入り組んだ構成のメタフィクションであり、過去と現在を行きつ戻りつしながら、主要登場人物である津田自身が「事実を曲げ」ながら書き進んでいる小説と、小説内の「事実」とがないまぜになって進行する。
家族三人の失踪事件の真相解明と、津田が掴まされた偽札を巡るゴタゴタが主要テーマとなっているが、両者が複雑に絡み合いながら同時進行し、その驚くべき全体像が次第に浮かび上がってくる。そのどこまでが「事実」で、どこからが津田の想像の産物なのか。再読すれば、その種明かしも含めて「二度おいしい」小説かもしれない。
3月15日 休養
3月16日 ジョグ10キロ
3月17日 休養
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