『ジャンプ』
その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。(引用終わり)
タイトルの「ジャンプ」には、「飛び乗る」「飛び降りる」から転じて、「姿をくらます」という意味もある。三谷(僕)の前から突然居なくなったみはるは、一体どこにジャンプして行ったのか。
しかし、この小説の重要なテーマは、みはるの失踪の顛末やその理由ではなく、ましてや「現代女性の意志」などではなく、むしろ彼女の失踪前後に続いたいくつかの偶然が、彼女の、そして三谷の人生を大きく左右してしまったという事実の重さではないかと思う。
人生にはいくつもの分岐点がある。「あの時、○○をしていれば…」あるいは「△△をしていなければ…」。あの夜、三谷がアブジンスキーなる強烈なカクテルを飲んでいなければ、みはるがリンゴを買いに出かけなければ、翌朝かかってきた電話に三谷が出ていれば、みはるが失踪することはなかったかもしれない。
三谷が5年ぶりに彼女と再会することになる最後の章でも、三谷が博多から大阪に戻る予定を遅らせてまで、彼女と同じ有田行きの列車に乗り込まなければ、失踪の真相は遂に分からずじまいになっていたという設定で、これが冒頭と見事なシンメトリーをなしている。
いくつかの偶然の連続や、みはるの失踪の真相についてはやや作為的に感じる部分もあり、小説の完成度という点ではいまひとつの感が拭えないが、それでも最後まで飽きさせずに読ませる力量は大したものだ。
2月21日 ジョグ10キロ
2月22日 休養
2月23日 ジョグ10キロ
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント