『K・Nの悲劇』
「K・N」とは夏樹果波でもあるが、「プロローグ」に登場する幼なじみの「クミちゃん」こと中村久美である。3年前に久美を襲った悲劇が、果波の心身に異常現象を引き起こし、次第に夫・修平をも追い詰めていくという、いわばサイコホラー小説だ。
果波の異変についての医学的な解明は結局出来ないままに終わった感があるが、実際のところ「現在の医学は、人体という物質と、その人の精神を一元的には解明していません」(316頁)。人体に起きる最も神秘的な現象と言える生命誕生のメカニズムを、人間が人為的に破壊しようとするとき、母体の心身に人間の理解を超える現象が起きても不思議ではない。そんなことを考えさせる重い小説であるが、明るい結末には救われる思いがする。
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