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2014/03/19

『熔ける』

Tokeru内容は副題に「大王製紙前会長 井川意高の懺悔録」とある通りである。版元の紹介文。

カジノに入れ込み、注ぎ込んだカネの総額106億8000万円。一部上場企業・大王製紙創業家に生まれ、会長の職にありながら、なぜ男は子会社から莫大な資金を借り入れ、カネの沼にはまり込んだのか。その代償として、塀の中に堕ちた男の懺悔がここに―(引用終わり)

井川氏は会社法の特別背任の罪で懲役4年の刑を受けて現在刑務所で服役中であり、本書は言わば塀の中から届けられた懺悔録ということになる。誰もが知る会社の創業家出身の会長が106億ものカネを博打でスッてしまったという、およそ現実離れしたこの事件のことは報道で知っていたが、「なんでそんなことになったのか?」という根本的な疑問が心に残っていた。

本書を読んでも、その本当のところは分かったような分からないような、としか言いようがない。初めてのカジノでビギナーズ・ラックで勝った成功体験とか、会長の独断で何億ものカネが融通でき、監査法人、監査役会や取締役会といった会社のチェック機能が全く働かなかったことなど、その要因となった事情について詳述されてはいる。

しかし、結局のところは「私は単純にギャンブルが好きだったのだ」としか言いようがないようである。「パチンコやパチスロにハマって破滅する主婦の気持ちがよくわかる」と言い、「金額の多寡はともあれ、ギャンブル依存症に陥る人間の心理はまったく同じだ。たまたま億単位のカネを動かせる立場だったがために、私のギャンブル依存症は数百万円どころかケタをいくつも飛び越えてしまっただけだ」としている。

私自身、独身時代には相当頻繁にパチンコに通っていた時期があるが、数千円も負ければすごすごと退場していた。根っからの小心者ということもあるが、自分のカネではそれぐらいしか遊べなかったのだ。借金してまでギャンブルにのめり込む人間の心理は、やはり自分には分からない。

井川氏は厳しい父の薫陶のおかげもあって会社経営者としては優秀だったようで、担当した検事が「井川さん、おなたは経営者としては本当によく仕事をしていたようですね。大王製紙の関係者から話を聞いても、仕事に関して井川さんにまつわる悪口はほとんど飛び出してこない」との感想を漏らしたという。

また、著名な経営者や芸能人たちと交流を深めていたことが実名入りで語られ、さすがは創業家出身で毛並が違うなと思ったが、ホリエモンこと堀江貴文氏とも交流があったようで、堀江氏から座布団の差し入れをもらって感激したという。拘置所の硬い床を経験した者にしか分からない話で、大変興味深かった。

3月17日 ジョグ6キロ
3月18日 休養

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