伊勢本街道を歩く 第5日
最後の5日目は外宮、内宮他に参拝した。さすがに走る格好はNGなので、全行程「歩き」である。そもそも今回は伊勢本街道を走る(歩く)のが主たる目的なので、伊勢に着いた時点でもう旅は終わっていたとも言えるが、折角ここまで来てお参りせずに帰るのはもったいない。
早朝7時にホテルをチェックアウトして、まず外宮に向かう。外宮、内宮の順にお参りするのが作法らしい。5日に遷御の儀を終えたばかりで、真新しい御正殿(ごしょうでん、左奥)と、屋根に苔むし、20年の歳月を感じさせる古い御正殿(手前)、両方を見ることが出来る。
お参りを済ませた後、先着100名に無料配付される「参宮の木札」をもらうため、外宮前観光案内所で行列に並び、30分ほど待って無事ゲットした。「タダ」とか「オマケ」には根っから弱い関西人なのである(笑)。
これを首に提げて、いざ内宮に向けて出発である。外宮から内宮へ行くのに、普通はバスやタクシーを使うだろうが、ここで歩かないでは九仭の功を一簣に欠く。参宮街道のラスト約6キロの行程をのんびり歩くことにする。
近鉄のガードを潜り、その先の小田橋(おだのはし)を渡ると、街道は緩い登り坂となるが、ここを「間(あい)の山」というそうだ。外宮の内宮の間にある山ということで、往時は大道芸人が参拝客を楽しませたり、大変賑やかな場所であったそうだ。
間の山を上がった辺りを古市と言い、かつて江戸吉原、京都島原と並ぶ日本三大遊郭の一つがあった大歓楽街だったそうだ。参拝の後、「精進落とし」と称して享楽に耽るのが当時のお伊勢参りのスタイルだったらしく、古い川柳に「伊勢参り、大神宮にもちょっと寄り」という秀逸な句がある。外宮から内宮に行く途中に古市があるので、途中で引っ掛かってしまったりしたのだろうか。(笑)
今は当時の繁盛ぶりが想像も出来ないほど静かな、丘の上の住宅街に変わってしまっているが、わずかに1軒、麻吉旅館が往時のままの姿で現存しており、今でも旅館として営業しているという。細い路地にかかる木の橋を潜ると、往時の酔客の大声や女郎の嬌声が聞こえたような気がした。嘘です。(笑)
この先、伊勢自動車道を渡る手前に伊勢古市参宮街道資料館があり、遊郭や歌舞伎関係を中心に、江戸から昭和初期までの各種資料が展示されていた。中でも歌川広重の浮世絵「宮川の渡し」に心奪われた。
広重の現物は初めて見た気がするが、小さな人物の顔ひとつひとつまで実に細密に描かれている。いよいよ宮川を渡ってお伊勢参りする直前の人々の喜びと興奮が、百数十年の時を超えて伝わってくる。揃いの着物で踊りながら渡し場に向かう女たちの姿も見える。「うんうん、そら嬉しいわなあ」と、思わず絵の中の人物に語りかけてしまった。(笑)
さて、資料館で思わぬ長居をしてしまったので先を急ぐことにする。坂を下っていくと内宮の手前に猿田彦神社がある。猿田彦は天孫降臨の際に道案内した旅の神様ということで、ここまでの道中の無事を感謝しつつ参拝する。
さて、いよいよ内宮である。賑やかな「おはらい町」を通るルートもあるけれども、それは参拝後に通った方が良いと聞いていたので、国道23号の歩道を歩いて10時過ぎに宇治橋の袂に到着した。時刻のせいもあるだろうが、外宮と比べものにならないぐらい人出が多い。
宇治橋を渡ると気持ちが引き締まるが、実はそこはまだ神域外の神苑という場所に当たる。進路右手に植えられた松の木が何となく不自然に感じられるが、昔はこの辺りにも民家が立ち並んでいたそうで、明治以降の伊勢神宮の変容を物語る一例として、西垣晴次著『お伊勢まいり』に紹介されていた。
それはともかく、五十鈴川の水で手を洗い清めて、石段を上がって御正宮(ごしょうぐう)にお参りする。外宮とは異なり奥の方まで見通すことは出来ず、また右隣の古い御正宮はほとんど窺うことが出来ない。やはりこちらの方が格式が高いということだろうか。
生憎雨が強くなってきたので、参集殿という休憩所に入ってみたら、ガラス張りの窓の向こうで巫女さんたちが神楽を舞っていたので、ありがたく拝見させてもらった。
参拝を終えて再び宇治橋を渡り、今度はおはらい町に入る。雨の平日というのに相当な人出である。少し早いけれども昼食を摂ることにし、とある店で伊勢うどんと手こね寿司のセットを頼んだら、胸の参宮木札を見て「サービスの小鉢が付きます」とのことで、牛あぶり焼きサラダが付いてきた。これが伝統的な施行(せぎょう)なのか、はたまた今流行りの「お・も・て・な・し」なのか。(笑)
まるで時代劇のテーマパークのような「おかげ横丁」を覗き、適当に土産物を買って帰路に就く。最寄りの近鉄五十鈴川駅を目指して歩いていると、前方に参拝帰りらしい中年夫婦が歩いているのが見えた。実はその時まで、伊勢本街道、参宮街道を通じて、徒歩の参拝客を一人として見なかったのだ。平日とは言え式年遷宮直後なので、少しは徒歩組がいるかと予想していたのだが、最後の最後になってようやく同志を発見した思いだった。
五十鈴川駅に近づくと、この駅止まりの下り急行列車がちょうど入ってきたところだった。そのまま折り返し、12時52分発上本町行き急行となったので、さほど待たされずに帰ることが出来たが、実はこの急行、後で近鉄時刻表を見ても、ネットでダイヤ検索しても出てこない。遷宮の臨時列車か何かと思うが、そういう表示やアナウンスもなく、何かキツネにつままれたような気分である。
それはともかく、大和八木に14時半過ぎに到着、15時頃に帰宅した。五十鈴川から榛原までは1時間半ほどだった。人間の足で丸2日かかったというのに!
お盆過ぎに思いついて以来、色々と事前調査し、何度も図上シミュレーションを繰り返した上で臨んだ今回のお伊勢参り。少し道に迷った箇所はあったものの、無事に走り(歩き)通すことが出来、初めて自分の足で吉野まで行ったとき以来の冒険を成功させた思いである。
これで街道走りの面白さに目覚めたので、奈良大阪を中心にいろんな街道を走ってみたい。まずは、今年が1400年の記念イヤーであるらしい竹内街道・横大路が次なるターゲットだ。
10月14日 ジョグ10キロ
10月15日 休養
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コメント
お疲れさまでした~。
最後は一気にゴール?されたのですね。(^^)
自分はまつさか餅で止まってます。(^^;
街道走り歩き、楽しいですよね。
これからまこてぃんさんの報告も参考させていただいて、私も頑張り?ま~す。
投稿: くー | 2013/10/15 21:29
くーさん
榛原から伊勢まで1泊2日で一気でした。
分けて行くと交通費がバカになりませんので。(^^)
街道歩きが趣味の人は多いようですが、
集落と集落の間の単調な箇所を走って短縮できるのは、
ランナーならではの特権ではないかと思いますね。
投稿: まこてぃん | 2013/10/16 09:52