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2013/06/17

カナダ旅行記 トロントその5

旅行最後のイベントはトロント交響楽団のコンサート。実はこの予定を最優先して、全体の旅程を組んでいたのだ。写真は同楽団の本拠地ロイ・トムソンホール。ガラス細工の帽子(?)みたいな独特な外観である。はじめにこの形状ありきで設計されたのかどうか分からないが、コンサートホールとしては音響面、設備面で問題があるように感じられた。

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音響面では、ホール空間の大きさ、形状からか、音が相当デッドな(響かない)上に、私が座った3階席(Balcony)では、山彦のような反響音が気になった。また、設備面では1階ロビーは無駄に空間を余しているのに、2階、3階に行くにつれてロビーが手狭となり、特にトイレは潜水艦の中のような(入ったことはないが・笑)狭さである。休憩時間は通路が人で溢れ、「まるでローリング・ストーンズのコンサートみたいだ」(古っ!)とボヤいている人がいた。

さて、トロント交響楽団といえば、かつて小澤征爾が音楽監督を務めたことでも知られる、カナダ屈指のオーケストラである。前に読んだ村上春樹の『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の中で、小澤氏は「トロントで彼(グレン・グールド)のことを少し知っているから、そりゃおかしな話がいっぱいありますよ。彼のうちにも遊びに行ったし…」と語っていて、このトロントで小澤、グールドの両者が接点を持っていたことが分かる。

現在の音楽監督はピーター・ウンジャン。カタカナにするとちょっと妙なこの苗字(アルメニア系らしい)でピンと来た人はかなりの音楽通である。そう、東京クヮルテットの第1ヴァイオリンを長く務めたあのウンジャンが、今は指揮者として活躍しているのだ。トロント生まれで、2004年からトロント響の音楽監督を務めている。小澤の5代後に当たる。この4月にはNHK交響楽団の定期にも客演したらしい。

同夜の演奏会は、前半がコープランド「アパラチアの春」、エドガー・メイヤー「ヴァイオリンとコントラバスのための二重協奏曲」(カナダ初演、トロント響他共同委嘱作品)、後半がラヴェル「ツィガーヌ」、レスピーギ「ローマの松」というプログラム。ヴァイオリン独奏がジョシュア・ベル、コントラバス独奏は作曲者自身である。

私の関心がプログラム後半にあったこともあり、前半の2曲はほとんど印象に残らなかった。というか意識が飛んでいた(笑)。メイヤーは作曲家、コントラバス奏者として活躍中の人らしいが、寡聞にして名前を聞いたことがなかった。コンバスのソリストと言えば、ゲーリー・カーぐらいしか知らない。演奏テクニックは凄いと思ったが、いくら音量の小さい楽器とはいえ、マイクで音を拾って増幅するのはいかがなものかと思う。

後半の2曲はほぼ期待どおりというか、予想どおりというか、ジョシュア・ベルの名人芸と、パイプオルガンも加わったフルオーケストラの大迫力に聴衆は大いに興奮したようで、曲が終わると同時にヒューヒューという歓声と拍手が湧き起り、多くの人がスタンディング・オベーションで演奏者を讃えていた。

「ローマの松」のトランペット、クラリネットのソロも大変美しく、相当実力のあるオーケストラと感じた。小澤時代に初来日、その後はあまり来日していないようで、国内で発売されているCDタイトルもそれほど多くない。日本の音楽ファンのドイツ・オーストリア系への偏愛のなせるわざかもしれないが、アメリカやカナダにも優れたオーケストラが数多く存在することを忘れてはなるまい。

終演後、そんなことを考えながらロビーを歩いていて、1台のグランドピアノを見つけた。近寄って見てみると、グレン・グールドが晩年の1981年にJ.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」を再録音した際に使用したヤマハCFⅡで、このホールに永久保存されているとある。

柵もロープもなかったので、椅子に腰かけてみた(グールド愛用の例の極端に低い椅子ではないようだが)。ピアノはかなり使い込まれていて、81年当時でも中古の楽器ではなかったかと思われる。もちろん鍵盤にはカギがかかっていて開けられなかったが、この楽器があの名録音を生んだのかと感慨一入であった。

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翌9日はいよいよ帰国日。出発まで少し時間があったので、ホテル近くを散歩しに出かけたら、偶然こんなシーンに出くわした。都心の道路を通行止めにして何かのマラソン大会が行われていたのだ。時刻は10時頃なのにもう多くのランナーがフィニッシュしている。後で調べてみたらトロント・チャレンジという、高齢者の生活改善のためのチャリティマラソンで、9時半スタートの5キロのレースだったのだ。

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その後、昨日行ったロジャース・センタ-の南にある鉄道遺産センターに立ち寄った。入場無料で、転車台や機関車、客車、駅舎などを展示してあり、自由に触れて乗って鉄道遺産を体感することが出来る。都心の高層ビルとの新旧の対比が面白い。

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カナダ7日間の旅もこれで終わり。お喋り好きの愉快な運転手のリムジンで空港に向かい、出入国も無事に済ませて帰ってきた日本はとても暑かった。

6月16日 LSD42キロ

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コメント

遅まきながら旅行記拝見しました。
とても充実した1週間でしたね。
観光内容がとてもバラエティに富んでいて感心します。ちょっとした時間も無駄にせずで?(^^)
『赤毛のアン』シリーズは高校生の時にちょっと嵌ってました。

先週の週末は東吉野の辺りを徘徊?(^^;してました。
あいにくのお天気で蛍は見られずでした。

投稿: くー | 2013/06/22 14:59

くーさん
ありがとうございます。
世界遺産の古い街並み、自然豊かな島、そして大都会。
事前にリサーチする時間が十分あったのが大きいですね。
蛍と言えば、約40年前にここ橿原に来た当初は、自分の
部屋の窓に蛍がいて、びっくりしたのを覚えています。

投稿: まこてぃん | 2013/06/22 21:20

内容の濃い観光記でしたね。

ピアノの話は凄いです。立入禁止にしていないところが大らかですね。鍵盤は鍵がかかっていたとしても、蓋はさわられるわけで、舞い上がってしまいそうです。

グールドと共演の指揮者といえば、まこてぃんさんの大先輩もいらっしゃいますね。GPになってもグールドがなかなか現れず、「グールド!来ているのか!!」とか大声を出すと、ノコノコと「寒い、寒い」と、いつものように出てきたとか。


トロント響は秋山さんも何度か指揮していますよね。


ベルリンフィルのHn奏者に元トロント響の方がいます。入団した時が小澤監督時代だったようです。


帰国日にマラソン大会に遭遇するところもいいですね

投稿: 高橋 | 2013/06/23 08:02

高橋さん
コメント、お待ちしてました。
「カギがかかっていて」と分かったということは、
当然、蓋を開けてみようとしたわけで…。(^^)
コンサートのチケットがないとホールに入れないので、
一般には公開していないという位置づけと思います。

バーンスタインだろうが朝比奈御大だろうが、
グールドにとっては全く関係なかったでしょうね。
冷え性なのか、30分ほどお湯で手を温めないと
演奏を始められなかったそうです。

投稿: まこてぃん | 2013/06/23 11:32

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