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2012/06/23

『なぜ人は走るのか ランニングの人類史』

51nd7gpxz6l__sl500_aa300__2トル・ゴタス著。ある人に勧められて3週間かけて読んだ。カバーの紹介文。

大地を駆け抜けていくための優美な躍動感と筋肉の巧みな調和。人類は走るために進化し、走ることによってさらなる進化を遂げた。長い人類史のなかで、人はさまざまな理由で走ってきた。援軍を求めるため、勝利を伝えるため、神に祈りを捧げるため、もっと速く、もっと遠くへ―それはいつしか限界への挑戦に変わり、いまやサハラ砂漠二四〇kmや南極二五〇kmの走破に挑む人々がいる。いったい人はなぜ、そうまでして走るのか。古今東西、走り続けてきた人類の記録をたどり、人間にとって「走る」ことの意味と魅力に迫る。 (引用終わり)

全25章からなり、太古から現代までの「走る」ことに関わるいろんなテーマを網羅している。我が国に関しても、第6章で修行僧、第22章で瀬古利彦氏が取り上げられている。マラソンの起源とされている、マラトンからアテナイへ勝利を伝えた直後に命を絶ったという伝令の話が、実はかなり眉唾ものであることなど、興味深い話が多かったが、本書で最も印象に残ったのは、人類は長く走ることによって類人猿から進化したとする、次のような指摘である。

ヒトは走るために進化した
生物学者のデニス・ブランブルと人類学者のダニエル・リーバーマンが主張するところによると、二〇〇万年前に人類が猿に似た祖先から進化したのは、アフリカのサバンナで動物を狩るために長い距離を走らなければならなかったからだという。気候が変動し、森という森のほとんどがサバンナに変わった結果、生活環境も様変わりする。新しい環境は、走る能力を持つアウストラロピテクス(猿人)に優位をもたらし、また時を経て、長距離を走れる骨格にとっても有利に働いたというのだ。もしそうだとしたら、走るという能力が人類の進化に果たした役割は大きい。言い換えれば、人類の祖先は、地上で生活せざるを得なくなり、骨格と身体が変化し、さらに解剖学的に言うなら、走ることで人類は人間になったことになる。
 ブランブルとリーバーマンは、走ることが単に二足歩行の延長にすぎないという通説に異を唱えている。アウストラロピテクス(猿人)が二足歩行を始めたのは、四五〇万年前、まだ木から木へ飛び移っていたころだ。当時もホモ(ヒト)属はすでに地上を歩いていたが、ホモ・サピエンス(現生人類)の出現までには、さらに三〇〇万年以上の時を要する。それまでの間、人類の祖先は、まだ人間とはあまり似ていないことを考えると、歩行能力が人間の進化に最も決定的な影響を与えたとは考えにくい。人間と比べると、アウストラロピテクスは、脚が短く、腕が長く、筋肉質で、猿に似た体つきだ。ブランブルとリーバーマンはこう述べている。「自然淘汰によって走るようにならなかったら、われわれは今でももっと猿に似ているはずだ」
 ふたりは、人体の二六の特徴を調べた。また、一八〇万年前から四万年前に生息していたと考えられているホモ・エレクトゥス(「直立人」という意味)の化石と、二五〇万年以上前の骨格の残骸が発見され、「人間の原形」とも称されることがあるホモ・ハビリス(「器用な人」という意味)の化石を比較調査した。人類を走る生物にしたのは、脚および足の腱、弾力のある関節、効率よく機能する足指だった。長い歩幅をとって、足が地面に当たる瞬間の衝撃を体で吸収する。バランス能力にも優れており、骨格と筋肉で体を補強したうえ、数百万の汗腺のおかげで過熱を予防できるので、人類の体はいっそう走りに適したものになった。
 人類は、多くの種と比べて走るスピードは遅いが、発汗することで体温の上昇が抑えられるため、狩猟時に、足の速い動物の体力を消耗させることができる。訓練すれば、きわめて高い持久力を獲得できるから、暑い日に、レイヨウのような自分よりずっと足の速い動物を狩ることも可能になる。アフリカのブッシュマンは、今でも、レイヨウを過熱で倒れるまで追い詰め、やすやすと手に入れる。
 走ることは、人類の本質的な特徴であり、人類はさまざまな場面でこの特性を生かしている。(本書33-35頁)

ヒトは直立歩行することによって、手が自由に使えるようになり、また重い脳を支えることが可能になって進化したと、その昔学校で習ったように思うのだが、実はそれ以上に走ることが人類の進化にとって決定的な要因であったのかもしれない。

走ることは、実は人間の存在意義に深く関わる行為なのかもしれない。

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