『遠い幻影』
解説には「短篇小説好き」とあるが、実のところ吉村氏の短篇はそれほど多くないと思う。著者自身「あとがき」の中で、「竹の節のように、一定の時間の間隔をあけて短篇小説を書く」と述べている。
12の短篇は、どこまでが氏の実体験で、どこからが創作なのか、判然としないものが多い。ストーリーも、「起承転結」で言えば、「転」はあっても「結」がないままに終わっている。最後の2篇はもはや小説ではなく、「私」の眼で叙述された純然たるエッセイである。
それにもかかわらず、どの作品も読み終えた後の余韻というか、「世の中そんなこともあるよね」という切実なリアリティを読後感に残すところが、吉村氏の真骨頂なのであろう。
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