シューマンのピアノ協奏曲
先日読んだ『シューマンの指』で最初に取り上げられた楽曲は、彼の唯一のピアノ協奏曲イ短調作品54である。主人公が「レコードで一番聴いたのは、マタチッチが振ったリヒテルの演奏で、リパッティのモノラル盤にもときおり針を落とした」とある。
ごもっとも。この2枚を外してこの曲の録音を語ることは出来ないというぐらいの名盤なのである。オケを含めた総合評価では、カラヤン指揮フィルハーモニア管のリパッティ盤が、モノラル録音というハンディを超えて、マタチッチ指揮モンテカルロ国立歌劇場管のリヒテル盤を凌駕しているものと思う。
しかし、リヒテル盤には他の追随を許さない魅力がある。モンテカルロのオケは冒頭のトゥッティからして「グシャ」という汚い響きだし、続くオーボエのソロはほとんどラーメン屋のチャルメラであるが、それを我慢して聴き進んだ402小節目からのカデンツァの物凄いこと! 極論すれば、その迫力だけでもこの録音には歴史的価値があると思う。
エスプレッシーヴォと記されたなだらかなメロディが次第に高潮した後、420小節目からのフォルテで重戦車のような力強いタッチの8分音符が連続するところは正に聴き手を圧倒する。リタルダンドでウン・ポコ・アンダンテにテンポを落としてからは、一転してトリルの装飾を伴うロマンチックな楽想になり、熱い思いを秘めたまま静かに再現部に続いていく。
できればカデンツァが終わることなく、このままピアノソロを聴き続けていたいと思うほど、このカデンツァの演奏は素晴らしい。この協奏曲の演奏は何種類聴いたか分からないが、そんな思いを抱いた演奏はこのリヒテル以外にはなかった。
ちなみに、この曲の第1楽章冒頭は、「ウルトラセブン」の最終回で主人公がカミングアウトする場面で非常に印象的に使用されていたが、そのサントラはカラヤン=リパッティ盤らしい。さすがメディアの王者カラヤンというべきか。
4月14、15日 休養
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