『送り火』
重松清の本は久しぶり。都市近郊サラリーマン世帯の哀歓を描かせたら、この人の右に出る者はいない。版元紹介文。
郊外のニュータウンと新宿を結び、沿線各地から富士山が望めることから名づけられた○○鉄道富士見線。この沿線に広がる街を舞台に、そこに住む人々の小さなドラマを綴った連作短篇集です。重松作品は、その温かで励ましに満ちた視線で人気が定着した観があります。今作もその延長線上の作品といえますが、一つ、幻想奇譚の味わいが加味されていることが特徴です。街の魔力がギラリと顔を覗かせますが、最後に救いがやってくる――重松作品の新しい魅力の出現です。(引用終わり)
2月23日 ジョグ10キロ
2月24日 ジョグ10キロ
紹介文では「○○鉄道」とあるが、作中では「武蔵電鉄」と明記されている。架空の鉄道という設定ではあるが、
始発の新宿駅を出てしばらくは地下を走る。地上に出て最初の駅が、笹原――
向かい側のホームに別の電車が滑り込んできた。笹原駅が終点の地下鉄の電車だった。
アイボリーの車体にえんじ色のラインが入った富士見線の電車
などとあり、「笹原」を「笹塚」に読み替えれば、モデルは明らかに京王電鉄である。余談ながら、「京王帝都電鉄」から知らない間に社名変更されていた。
鉄ネタはともかく(笑)、本作は短篇9篇からなり、ファンタジックな趣の作品が多いが、遊園地近くに家を建てながら早逝した父の、娘である自分への思いをようやく理解する標題作「送り火」が秀逸だった。仕掛けが分かってしまっても泣かせるところは、もう「重松節」としか言いようがない。
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