『向日葵の咲かない夏』
エゴン・シーレの向日葵の絵があしらわれた美しい装幀のカバーとは裏腹に、内容はいじめ、自殺、児童ポルノ、動物虐殺、ゴミ屋敷と、現代の病理が一気に噴出したような、目を覆いたくなる陰惨な物語である。
S君は自殺だったのか、他殺だったのか。死体を隠したのは誰なのか。二転三転する複雑なトリックに途中からついていけなくなった。最後の方で真相が明かされても、「ああそうですか」という感じで、見事に騙されたという快感も湧かなかった。
本書のキモは、主人公ミチオの次のようなセリフなのだろう。
「みんな同じなんだ。僕だけじゃない。自分がやったことを、ぜんぶそのまま受け入れて生きていける人なんていない。どこにもいない。失敗をぜんぶ後悔したり、取り返しのつかないことをぜんぶ取り返そうとしたり、そんなことをやってたら、生きていけっこない。だからみんな、物語をつくるんだ。昨日はこんなことをした、今日はこんなことをしてるって、思い込んで生きてる。見たくないところは見ないようにして、見たいところはしっかりと憶え込んで。みんなそうなんだ。僕は、みんなと同じことをやっただけなんだ。僕だけじゃないんだ。誰だってそうなんだ」(257頁)
とても深い内容の言葉なのだが、こういうことを10歳の子供に言わせるところがいかにも不自然である。実は「名探偵コナン」だったりして。(笑)
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