『乱反射』
悲惨な大事故というものは、通常では考えられないような人為ミスや偶然がいくつも重なったときに起きると言われる。この物語での幼児死亡事故は、社会的には小さな事件でしかなかったが、周囲の人間の些細なマナー違反や、犯罪とまでは言えない利己的行動がいくつも重なったところに起きた。
法的には一人の人間の責に帰され、刑事裁判にかけられるのだが、幼児の父はそれでは納得がいかず、関係した人々を次々に尋ねまわって事件の真相を探ろうとする。やがて、それが結局は天に唾するに似た行為であることを知った彼は、社会と人間に対する大きな絶望に襲われることになる。
物語の設定はやや作為的な感じがしないでもないが、それぞれの登場人物のディテールがよく書かれていて面白く、500頁を超える長篇にもかかわらず最後まで飽きさせない。「-44」から始まり、「0」の最後で事故が起きるという章立ても良かった。
ただ、最後のエピローグはいかにも蛇足という感じがした。『愚行録』のように全く救いのない話でも構わなかったと思う。
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