『チューイングボーン』
ビデオ撮影の謎は元々の依頼者の置き手紙によって明かされることになるが、実際にあり得なくもない話と思われるだけに、かなりコワいものがある。さすがホラー小説大賞を取っただけのことはある。
異常な依頼に巻き込まれた主人公の心理は、巧みな比喩を用いながら異様なまでに細かく描写されている。大賞選考委員の林真理子氏が「まごうかたなき才能の持ち主」と絶賛したのは、そうしたところにあるのではないか。
ただ、主人公の心理や行動、特に題名が絡んだラストにまで影響を及ぼしていると思われる「母」の死についての掘り下げが十分でなく、やや消化不良の読後感を残す。意図したものかもしれないが、「父」の存在感のなさも相当なものだ。
ところで、本作品とは関係ないが、文庫本巻末の紹介にあった「新津きよみ」という人の本が大変に面白そうである。テレビドラマの原作をたくさん書いているらしく、読みやすいものが多いかもしれない。
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