『追憶のかけら』
交通事故で妻を亡くして失意にしずむ大学講師が、ある作家の未発表手記を入手する。自身の境遇を打開し、失意を乗り越えるためにも、そこに書かれた作家の自殺の真相を探ろうとするが、過去にその作家に降りかかった災厄以上に、悪意に満ちた災厄が待っていた。底知れぬ悪意の矛先が自分に向けられていると悟ったとき、大学講師は戦慄せずにはいられなかった。果たして、その罠は誰が、なぜ、仕掛けてきたものなのか? 深まる謎にもまれるように物語は二転三転していく。翻弄されつづけた男の運命は……。注目の著者が放つ渾身の長編ミステリアスロマン。(引用終わり)
1月13日 軽いビルドアップ10キロ
1月14日 ジョグ10キロ
四六判478頁もの大部。しかも、本文は上下二段組、「手記」の部分は旧仮名旧漢字(どういう訳かルビだけは新仮名だが)で、読み通すのに相当の時間を要した。
それだけのことはある大変な労作だと思う。引用された形の「手記」は自殺に追い込まれた作家の底知れぬ恐怖を描き、未解決の謎を残したままで全文を終わるが、その時点でも小説全体としてはまだ半分しか進んでいないのである。
「手記」を手にした大学講師がその謎を追ううちに、全体が何者かによって周到に仕掛けられた罠であることが判明し、かれ自身が現実の恐怖に絡め取られていくという、恐ろしく手の込んだ物語はそこから始まるのだ。
「手記」の謎は比較的簡単に明かされるけれども、大学講師に仕掛けられた罠の全貌は二転三転し、文字通りのサスペンスが最後まで続く。それに比べると、結末で明かされる真相は何とも意外というか、拍子抜けした感じすら与える。
しかし、それが実は作者の本当の意図なのではないか。恐怖のあまり理性的な判断力を失ってしまっていた大学講師が自分を取り戻し、家族愛を再び確認するところで物語は温かく終わっている。読者も主人公と恐怖を共感してきただけに、この結末は見事な効果を与えるのだ。
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