『約束』
「絶対泣ける」という売らんかなのキャッチコピーはちょっといただけない。(苦笑)
「あとがき」の中で著者は、大阪教育大附属池田小学校の事件がきっかけとなってこの短篇集が生まれたとし、全体の執筆意図を次のように述べている。
かけがえのないものをなくしても、人はいつか自分の人生に帰るときがくる。さまざまな喪失によって止まってしまった時間が、再び流れだすときを描く連作「バック・トゥ・ライフ」が、こうして始まりました。(中略)みんな、今はうつむいていてもいいから、いつかは顔をあげて、まえにすすもう。こんな簡単なことを二百ページ以上もかけて書くなんて、自分でもあきれてしまいます。
「こんな簡単なこと」は、表題作「約束」の中では、通り魔事件で死んだ小学生ヨウジが生き残った友人カンタを励ます、次のようなセリフとして語られている。
カンタを見ていて思った。たとえ自分がぜんぜん冴えなくなっても、そんなに悪くないって。すこしだけ友達がいて、パパやママがいて、風が吹いて、夏がきて、ボロっちくてものり慣れた自転車があって……冴えなくてつまらない人生でも、生きているのはぜんぜん悪くない。
これを含めて死者が重要な登場人物となっている作品が7篇中5篇もあって、シャマラン監督『シックスセンス』みたいなファンタジックな味わいもあった。
しがない中年サラリーマンの生活だけれど、それも「ぜんぜん悪くない」と思って生きていこうか。
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