『街のはなし』
「あとがき」によれば、文藝春秋の女性向け月刊誌『クレア』に創刊から6年に亘って連載されたエッセイを集めたものということである。連載時のタイトルは、居酒屋で寛いでいるときにふと思いついた題材をメモしたということから、「箸袋から」と名づけられていたそうだ。こちらの方が遥かに味わいがあると思う。
それはともかく、身辺雑記や旅行、酒と食べ物に関する話もさることながら、女性誌連載ということで女性や結婚について、またご自身の奥さん(作家の津村節子)についての話が興味深い。愛妻家は概して恐妻家であるというが、吉村氏もご多分に漏れずのようで微笑ましくなる。
中でも、あまりに吉村氏が傘を失くすので奥さんに叱られたという話を紹介した「ビニール傘」の次の一節はとても他人事ではなく、心から同情を覚えてしまった。(苦笑)
それでも年に一、二度はなくし、帰途そのことに気づいて、同じ柄のものをデパートでさがす。家内になくしたことを知られないようにするためで、傘売場で物色して歩きまわっている時は、たかが傘のことで家内をこれほど恐れなくてもよいのに、と物悲しい気分になる。
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