『縁起のいい客』
吉村昭ファンの走友T氏から、私の文体が吉村昭に似ていると言われたことがある。何となく分からなくもないという感じはあるが、例えば吉村氏が家では夜9時までは飲まないとか、自ら決めたルールを頑なに守ったりするところなど、性格的に似ているのではないかとも思う。
全56篇それぞれに味わい深いが、マラソンについて述べている次の箇所は、ランナーとしては見逃せない。
私がマラソンを好きなのは、レースが人間の生き方とよく似ているからだ。スタートから飛び出す選手は、必ずと言っていいほど疲れて後続の集団に吸収され、はるか後方にさがってゆく。実生活の上でも、初めに飛び出して疲れてしまった人間が何人もいることを、私は知っている。
初めはおくれていても、着実に一定のペースを守って後方から少しずつ追いあげ、やがて先頭集団に加わってくる選手もいる。このような選手は無気味で、私の好みのタイプだ。人間の生涯は長丁場だ、と知っている人のように思える。(191頁)
ランナーとしてはイーブンペースタイプに属するけれども、実人生では前半で飛ばしすぎてもうバテバテ状態の自分としては、ちょっとほろ苦い指摘である。(苦笑)
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