『虹の翼』
二宮忠八はプロの発明家ではない。幼少期に実家の商家が倒産、裸一貫で田舎から出てきて軍隊に入り、調剤手として日清戦争に従事した後は実業界に転じて、最後は製薬業界の大立者になったという、波乱万丈の生涯を送った人物である。
彼が若い日に原理を発見した「飛行器」は、軍部に採用を働きかけたものの完全に無視され、結局初歩的な試作機を飛ばしただけに終わり、とうとう日の目を見ることがなかった。後に同じ原理に基づく飛行機が欧米で次々に試作され、成功しているという新聞記事を目にした彼が、悔しさのあまり自らの試作機を破壊してしまう場面は誠に痛々しい。
その後、軍部は慌てて外国から飛行機を輸入して飛行実験を開始したが、わが国が今なお航空機産業においては完全な後進国にとどまっているのは、もしかしてこの最初のつまづきにあったのかもしれない。忠八が草葉の陰から嘆いている気がしてならない。
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コメント
私は凧揚げを見ると、つい忠八を思い出すのですが(^^;。
模型機(器?)を公園で飛ばして、妻が手を叩いて驚く場面がありますよね。あのへんも好きです。
軍部から完全に無視されましたが、後年になって詫び状が来たし、あるいは飛行機事故の報に接したりして、彼の気持ちもそれなりにまとまったようにも思えます。
これ映画化してくれないかな。
この小説って、松本清張の「或る小倉日記伝」に相通じるものがあるように思えます。
しかし、彼が幼少期に、兄たちが遊女遊びしてほぼ無一文で帰ってくるあたりはぞっとします(^^;。
投稿: 高橋 | 2009/07/03 07:05
高橋さん
確かにこれまで読んだ吉村作品では一見
最も映画化に適しているように思いました。
八幡浜の空に揚がる凧を見つめる少年の顔。
試作機がふわりと宙に舞い上がる瞬間。
でも、それも前半まで。後半は締まりませんね。
会社での出世物語は絵になりにくいし、
新聞を読んで悔しがる忠八の顔ばかりでもねえ。
投稿: まこてぃん | 2009/07/03 22:29