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2009/06/21

『羆嵐』

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吉村昭著。「くまあらし」と読む。「羆」はヒグマのことである。岩手遠征のため図書館に行く日がなかったので新潮文庫を自腹で購入したが、それだけの値打ちは十分あった(笑)。文庫紹介文。

北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現! 日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音……。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。

6月20日 ジョグ10キロ
6月21日 ジョグ10キロ

本書の次のような記述を読めば、羆が内地の熊とは全く別の生き物だということが分かる。

内地の熊が最大のものでも三十貫(一一〇キロ余)程度であるのに、羆は百貫を越えるものすらある。また内地の熊が木の実などの植物を常食としているのとは違って、羆は肉食獣でもある。その力はきわめて強大で、牛馬の頸骨を一撃でたたき折り内臓、骨まで食べつくす。むろん人間も、羆にとっては恰好の餌にすぎないという。(文庫30頁)

小説はまず事件の舞台となった地域の苦難に満ちた歴史についての淡々とした叙述から入る。これは他の吉村作品でも同じなのだが、本作品の場合はそれが後の大惨事への伏線のように感じられて、とても不気味な感じを与える。ジョーズが出現する前の平和な海水浴場の風景よりももっと怖い。

羆が2日間に男女6人を殺害した陰惨な現場の叙述は眼を覆いたくなるほどだが、その後、地元警察の分署長が指揮を執る地元の男達200名からなる救援隊が、羆の脅威の前に全くなす術もない状態に陥ってしまうところに、この羆の人々に与える恐怖が並大抵のものではなかったことが窺える。

最後は老練な猟師の銀四郎によって羆は見事に仕留められるのだが、その後処理を巡って右往左往する人々の様子や、銀四郎との衝突までがリアルに描かれていて、単なる美談ものに終わっていないところは、さすがに一級のドキュメンタリー作品だと思った。

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