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2009/05/09

『高熱隧道』

111703吉村昭もこれで4作目となった。ちょうど近所の図書館が新潮文庫改版を購入してくれたところだった。別にリクエストしたわけでもなく、偶然にしては出来すぎだ。版元紹介。

黒部第三発電所――昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷の、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、隧道(トンネル)を掘鑿する難工事であった。犠牲者は300余名を数えた。トンネル貫通への情熱にとり憑かれた男たちの執念と、予測もつかぬ大自然の猛威とが対決する異様な時空を、綿密な取材と調査で再現して、極限状況における人間の姿を描破した記録文学。(引用終わり)

5月8日 休養
5月9日 LSD20キロ

実は某電力会社の方のご厚意で、宇奈月から黒部川伝いに黒部ダムまで通り抜けたことがあり、途中、この小説の題材となった「高熱隧道」を専用軌道車で通過した。ここを昭和30年頃に通られた吉村氏が「あとがき」の中で書かれている通り、異様な熱さと湿気が車両の中にまで伝わってきた。おそらくそれは今日でも変わらないだろう。

それ以前からこの小説の存在は知っていたが、訪ねる前に読んでおけばよかったと、今になって後悔している。『戦艦武蔵』でもそうだが、吉村氏はかつて誰も記録に残さなかったこの大事業について、丹念な調査と関係者への綿密な取材を重ね、事実をもって事実を語らせている。

「鉄筋コンクリートの宿舎を、山を一つ越して五八〇メートルの遠くまで吹きとばしたという雪崩の話」が出てくるが、想像を絶する自然の巨大な力と、それに立ち向かった人間の壮絶な戦いぶりも、吉村氏のそうした努力がなければ、一部関係者の記憶にのみ止まっていたに違いない。

吉村氏が大変な努力で再現してくれたこの圧倒的な物語を、読者はあるがまま粛然と受け入れればそれでよいのだ。文庫本巻末のイデオロギーに凝り固まったような「解説」は蛇足の極みである。折角の名作の余韻が台無しになってしまった。

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コメント

最近は音楽ネタよりも、こちらでRESばかりです..。今度、お会いする時は、こちらのネタ中心?

吉村のスタンスは「自分が調べた以外の情報は信じない」というもので、とにかくその取材の凄さには驚くばかりです。

黒部、通り抜けたことがあるんですね。私はそのような経験はなく...。

解説はおっしゃる通りですね。彼の解説は森鴎外しかいないと思います(^^;。鴎外の史伝に通じるものがありますからね。


吉村の作品は本当に多々ありますが、最晩年の作品はまだお楽しみとして、「傑作の森」(^^;の時期として以下をお勧めします。図書館でお見かけしたらぜひ


「零式戦闘機」
「深海の使者」
「虹の翼」
「大黒屋光太夫」
「海もくれきる」
「破獄」


「零戦」は「武蔵」と兄弟作。
「深海」は読んでいて酸欠しそうに(^^;
「虹の翼」は、悔しくて涙が出ます。

「大黒屋」は長編です。「漂流」同様、海に迷い込む男の話ですが、彼は、レニングラードまで行きます(陸路ですけど)。

「海は・・」、異端の作品です。「咳をしても一人」の男の話

「破獄」は、とにかく何度も脱獄する話(^^;

投稿: 高橋 | 2009/05/14 06:35

高橋さん
今、『零式戦闘機』を読んでいます。
『戦艦武蔵』と同じテイストで、大分馴染めてきました。
棕櫚に対してこちらは牛車。
意外なオープニングはさすがですね。

次は近くの図書館にもある『破獄』が
興味津々です。

投稿: まこてぃん | 2009/05/14 21:04

私は各務原の中学に一度だけ出張した時に、そこの廊下からずっと自衛隊の飛行場を見ていました。先生に、「ここに牛や馬で・・」と話したら、「そうなんですか!!」と(^^;。

ところで、私の実家の各部屋のエアコンは三菱重工!扇風機も三菱!電子レンジも三菱、車も三菱(一時期、いろいろ話題になっても)。


親父が「零戦の魂が受け継がれている!」と言っているのです。絶対、そんなことはないと思うのですが..。


「破獄」は先日亡くなった、緒形さん主演ののドラマも名作です。

いやぁ、脱獄方法がすごいですよ!

投稿: 高橋 | 2009/05/15 12:39

高橋さん
確かに、三菱重工と三菱電機は違いますよね。
「ビーバーエアコン」は重工で、「霧が峰」は電機とか。
ビーバーの方には受け継がれているかも。(笑)
NHKドラマは他に、北大路欣也主演の『漂流』もあるようですが、
どちらもツタヤレンタルには出てないですね。(泣)

投稿: まこてぃん | 2009/05/15 23:04

ビーバーエアコンのどこに零戦の魂が受け継がれているのか?謎ですが(^^;。

省エネが世界一だったら納得しますけど。あるいは、やたら軽い!片手で設置可能!!とか(^^;


北大路の「漂流」は映画です。確か東宝だったと思います。

春日部のツタヤにあります。「破獄」と違って原作とはかなり違い、完成度は今二つくらいです。吉村昭も不満だったようで。

ただ、アホウドリを本当に殴り殺す場面があります。天然記念物ですが、どうやって許可を?(^^;。

投稿: 高橋 | 2009/05/16 08:22

高橋さん
三菱重工は航空機から船舶まで幅広いですからね。
エアコンは冗談としても、もし零式を受け継ぐとしたら
次期国産ジェット旅客機あたりになりますかね。
『漂流』は確かに東宝映画のようですね。
アホウドリの天然記念物指定前だったのかな。

投稿: まこてぃん | 2009/05/16 22:30

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