『零式戦闘機』
紹介文にあるとおり、『戦艦武蔵』と対をなす名作であると思う。しかし、同じ太平洋戦争の主要戦力でありながら両者の様相はかなり異なっており、小説の力点の置き方も自ずと異なっている。戦艦武蔵は完成した時点で既に時代遅れの巨艦巨砲であり、就役後は悲惨な運命が待ち構えていた。吉村氏はむしろその建造過程の特異性に注目している。
これに対し、零式戦闘機の開発過程は軍事機密に関わるのか、意外にあっさりとしか記述されていない。それよりも、実戦に投入されてからの零式戦闘機の華々しい戦果と、そのあまりの高性能ぶりに頼って野放図に拡大した南方戦線の失敗、それが悲惨な敗戦へと繋がっていく過程を、吉村氏は冷徹とも思えるぐらい淡々とした筆致で記述していく。
ところで、「零式」という名称は、この戦闘機が制式採用された昭和15年が皇紀2600年に当たっていたことに由来する。解説文には「ゼロ戦」とあるが、それはいわば俗称で、正しくは「れいしきせんとうき」と読む。理由は簡単で、「ゼロ」は日本語ではないからである。NHK、民放を問わずアナウンサーは必ず「れい」と発音する。「ゼロ」と読む人がいたら、それはモグリである。
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