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2009/04/07

『漂流』

111708吉村昭の作品を初めて読んだ。FRUN高橋さんのお勧め。だいぶ前に買っておいたのを最近ようやく手に取った。版元の紹介文。

江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、土佐の船乗り長平はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。(引用終わり)

4月6日 ジョグ10キロ
4月7日 休養/完全休肝

長平たちの生還には数々の幸運があった。辿り着いた島(鳥島)に人間を恐れないアホウドリが多数生息していて貴重な食糧となったこと。後から漂着した人々が大工道具を持っていたこと。島から脱出する際にくじで決めた方角がぴたりと合っていたこと、等々。

しかし、それよりも過酷な環境に耐えて生き抜こう、そして何としても本土に帰ろうという強い意志がかれらの間で共有されていたことこそ、途方もない事業に思えた脱出劇を現実のものにした原動力に他なるまい。

ともすれば悲劇性を誇張した情緒的表現に陥りがちなストーリーを、吉村氏は正反対の冷静沈着な筆致で淡々と叙述している。そのことが却って、かれらの置かれた厳しい境遇との闘いをリアルに描写することに成功している。例えば、長平の仲間の源右衛門が死んだ際の次のような文章は、どんな映像作品をもってしても不可能なほど鮮明なイメージを呼び起こす。

 洞穴の外で遺体をおろすと、内部にはこびこんだ。すでに源右衛門の体は硬直しはじめていて、胸の上で両掌を合掌の形に組ませることは困難だった。遺体にそなえる線香も花もないことが、長平には悲しかった。
 かれらは、貝と海草を拾ってきて遺体の傍に置き、冥土の旅に出るための杖として、イツサキに似た木の枝を折って両掌に添えさせた。そして、夕刻まで洞穴の中で源右衛門の思い出について語り合った。
 その日は、美しい夕焼だった。空も海も、鮮やかな茜色に染まった。
(145頁)

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コメント

よくぞ!ご紹介を(^^)。

私は高校以降、辛い時にこの書を読んだものです。
特に長平が一人になった期間が読み応えありますね。

鳥の干物..というのも、ピンと来ませんが..。

鳥島、一度行ってみたいのですが(^^;。
アホウドリは小笠原諸島への移住も進んでいるようですけど。


私からは、ブログで紹介したCDを!多分、まだお求めではないでしょう?

投稿: 高橋 | 2009/04/08 07:48

高橋さん
お約束の登場、ありがとうございます。

長平の孤独、確かに想像を絶します。
「人間関係の悩み」なんて、かれにとっては
とんでもない贅沢なのでしょう。

脱出に向けたあの大事業の完遂といい
生きる勇気を与えてくれる書物です。

お次は『高熱隧道』あたりに食指が
動きそうです。他にお勧め、ありますか?

CD、最近ほとんど買ってませんが、
サヴァリッシュ/ACOのベートーヴェン、
安かったですがなかなか名演揃いです。

投稿: まこてぃん | 2009/04/08 22:01

「漂流」ですが、山田邦子がラジオで絶賛していてびっくりしました。まさか、彼女がこの作品を熱く語るとは(^^;。まぁ、彼女も乳ガンという事態を脱し、生きていくという特別な考えを持ったのかもしれません。

誰が、勧めたのか(^^;。

吉村作品は多数ありますが(晩年は自分さえわかれば良いという方向へ)、親しみやすく、心に残るのは「戦艦武蔵」「零式戦闘機」でしょうか?戦記ではなく、技術者の魂を感じます。「零式」では、1グラムでも機体を軽く!という異常なほどの執念に寒気を覚えます(^^;。


「深海の使者」も強烈ですし、「虹の翼」は、読んでいて本当に悔しくなります(^^;。

「光る壁画」で胃カメラを思い出し..、まぁいろいろですね。

また夏に大阪に行くことになりました。今年は、あそこは走らないようにしようと思います。いきなり、怒られましたからね(^^;。

サヴァリッシュは、もう日本に来ないかもしれませんね。

投稿: 高橋 | 2009/04/10 20:14

高橋さん
いろいろとお勧め、ありがとうございます。
新潮文庫巻末の解説を見ていても感じるのですが
戦争もの以外にも本当に守備範囲の広い作家ですね。
夏の出張予定が決まりましたらご連絡を。週末だと
飛鳥~吉野コースも一度走ってほしいですね。

投稿: まこてぃん | 2009/04/10 22:10

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