『新・音楽展望1984-1990』
吉田秀和著。これも村上春樹つながり。版元絶版で引用する紹介文はない。
1913年(大正2年)生まれの著者は95歳の今日でも現役で活躍中の音楽評論の大御所的存在である。評論ばかりでなく、水戸芸術館の館長を務め、水戸室内管弦楽団を創設するなど、「言行一致」の人でもあるわけだ。
「音楽展望」は著者が1971年から朝日新聞文化欄に月1回連載しているもので、中断はあったようだが現在もまだ続いていて、毎月食い入るようにして読んでいる。今回読んだのは84年から90年までの掲載分を単行本化したもの。
ちょうどCDやビデオディスクが本格的に普及し始めた時期に当たり、LDやVHD(!)などの言葉には時代を感じさせる。また、ちょうど私の東京勤務時代と重なり、シノーポリとフィルハーモニアによるマーラー「復活」など、実際に足を運んだ公演のことが出てきたりして懐かしい。
氏の論考は虚心坦懐というのか、あくまでも自らの感性に素直なところに大きな共感を覚える。ホロヴィッツの来日公演を厳しく批判した話はあまりに有名だが、逆にやや批判的な眼で見ていたカラヤンが最晩年にウィーンフィルと録音したブルックナーについては高い評価を与えている。既定の価値観のみならず、自らの先入観にも囚われることがない。そこにこそ評論の評論たるゆえんがあるのだろう。
それ以上に氏の論評の奥行きを増しているのは、音楽のみならず舞踊、文学、絵画など幅広いジャンルの芸術に通暁しているところである。そうしたバックグラウンドに支えられた文章は大変に味わい深い。こういう本当の教養人がほとんど存在しなくなった現在、いつまでもお元気で活躍してほしいものである。
2月20日 ジョグ10キロ/完全休肝
2月21日 ジョグ10キロ
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