『音楽のある場所』
学生時代、ラジオ、オーディオ趣味から派生して音楽、特にクラシックファンになった自分の当時の愛読誌は『ラジオの製作』と『レコード芸術』だった。30年後に『ランナーズ』や『ターザン』を読んでいようとは全く想像もできなかった。(苦笑)
それはともかく、昔から吉田秀和氏を尊敬していて、レコ芸や朝日新聞に連載される氏の音楽評論は長く愛読してきた。1913年生まれというから今年95歳になる氏だが、最新の演奏に常に新鮮な関心を示しつつ、自分の感性を大切にした論評姿勢は全くブレがなく、安心して読めるのである。
例えば、本書中『パルジファル』を取り上げた章で、氏は正直にこう告白されている。
数あるワーグナーの楽劇の中でも、『パルジファル』はいちばん苦手の作品だった。第一、長くてやりきれない。(中略)絶対時間において長いというだけではなく、どの部分も、ほとんどいつもおそいテンポなので閉口するのである。
熱烈なワグネリアンは別として、こういう思いを抱く人は多いのではないか。私ももちろんそうである。作曲者の指示により、指揮者が登場しても観客は拍手を禁じられていて、粛々と演奏が始まるというあたりからして、音楽というより宗教儀式めいているぞ。
ただ、この文章は続きがあって、レヴァイン指揮のメトロポリタン歌劇場のLD(懐かしい・笑)は面白く、「全く久しぶりに全的関心をもって」終わりまで聴き通されたというのである。
ここで私も正直に告白しなければならない。10数年前の米国留学中、正にこのLDの元になったに違いない同じ公演をメトで観た際、前奏曲が終わった辺りから意識が飛んでしまい、ほぼ最後まで睡魔に襲われたまま無為な数時間を過ごしたことを!
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