『家日和』
紹介文にあるとおり、6篇とも「家」を舞台にした、まるで近所の人の噂話のように気楽に読めるストーリーでありながら、夫婦の心のスレ違いやお互いの再発見といったテーマが巧みに浮かび上がる仕掛けになっている。例によって結末が少し甘めだなと感じられる作品もあるが、奥田氏ならではの上手さに感心させられた。
中でも、妻に出て行かれて抜け殻のようになった家で「38歳の平凡な営業マン」が一念発起、好みの家具やオーディオ・ビデオセットを買い揃えて「理想の部屋」を完成させ、そのあまりの居心地のよさに同僚の男たちの堪り場になってしまう「家においでよ」が秀逸だった。作中人物の次のようなセリフを読むと、たとえ猫の額でも自分の部屋があることだけでも幸せだと思わねばなるまい。
「おれ、思うんだけど、男が自分の部屋を持てる時期って、金のない独身生活時代までじゃないか。でもな、本当に欲しいのは三十を過ぎてからなんだよな。CDやDVDならいくらでも買える。オーディオセットも高いけどなんとかなる。けれどそのときは自分の部屋がない・・・・・・」
「まったくだ。おれなんかCDを買っても聴けるのは車の中だけだぜ」
「まだまし。おれなんか通勤中のiPodだけ。車の中でロックをかけると子供たちがうるさがる」(110-111頁)
ところで、この本のカバーには最近話題の本城直季氏の写真が用いられている。技術的なことはよく分からないが、ピントの合う範囲を極端に狭くすると、実物の家や車、人間までもがまるでミニチュア模型みたいに写るらしい。本書の内容にこれほどピッタリの写真もないだろう。
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コメント
この本 面白そうですねぇ。
探してみようかな?
それと写真も興味がありますぅ。
ミニチュアを本物っぽくする技法なんかは
いままでもありましたが
うーん 逆転の発想ですね~~
ゆっくり走れば 早くなる (はず??)(苦笑;)とか
ではでは
投稿: たけした | 2008/02/19 10:12
たけしたさん
紹介した一篇以外も結構身につまされます。
本城さんは写真集が出ていますし、
デジタル写真をそれ風に加工するソフトも
出回っているみたいですね。
投稿: まこてぃん | 2008/02/19 17:35