『秋の花』
初の長篇であると同時に、このシリーズで初めて「死者」が登場する。しかし、通常の推理小説のような犯人探しやトリックの種明かしが本書のテーマではない。前2作に見られる「日常の謎」の言わば極端なケースで、日常生活に潜むちょっとした陥穽が悲劇を招いてしまったのである。
文化祭の準備に励み、幸福な青春時代の絶頂期にあった真理子と利恵。その真っ只中で起きた「事件」の真相を解明していく中で、「私」は人間のはかなさ、もろさを思い知らされる。しかし、それでもなお人間は生きていかなければならない。円紫師匠の次の言葉が重い。
「僕だったら、仕方のない事故だと分かっていても《許す》ことは出来そうもありません。ただ――」「救うことは出来る。そして、救わねばならない、と思います。」
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