『「ただの人」の人生』
初出は雑誌『文學界』他。その時のタイトルは「窓外雨蕭々」だったという。こちらの方が内容に合っているような気がするが、これでは売れないと思ったのか(笑)、出版社が変更をもちかけたものと推測する。
それはともかく、この人の文章は一見掴みどころがないようでいて、その裏には確かな人間観察眼が潜んでいる。決して難しい文章ではないのにスラスラと読み飛ばせず、読者は何かしら考え込んでしまう。そんな文章だ。奥田英朗が「旅行に持っていくのにいい」と言ったのは、多分そういうことではないか。
なかでも面白かったのは、「石川家の家計簿」にみる啄木の凄まじい借金生活と、「手当月額如何?」にみる漱石の朝日新聞入社の際の詳細な条件交渉である。偉大な歌人や文豪に祭り上げてしまっては見えてこない、彼らの生身の人間としての生活の実相を知ることで、その文学に対する理解も深まるような気がする。ノンフィクション作家ならではの冷徹な目が光っている。
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