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2007/08/03

『一瞬の風になれ』第一部

411vn0wffpl__aa240_佐藤多佳子著。以前から気になっていた本だが、最近あるラン友から譲っていただいたので早速読んでみた。アマゾンの紹介文。

主人公である新二の周りには、2人の天才がいる。サッカー選手の兄・健一と、短距離走者の親友・連だ。新二は兄への複雑な想いからサッカーを諦めるが、連の美しい走りに導かれ、スプリンターの道を歩むことになる。夢は、ひとつ。どこまでも速くなること。信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。神奈川県の高校陸上部を舞台に、新二の新たな挑戦が始まった――。
3部作の第1作に当たる本書では、新二がシーズン(春から秋)の1年目を終えるまでが描かれる。競技の初心者である新二の目を通じて、読み手も陸上のいろはが自然と身につく構成だ。見事なのは、競技中の描写。新二が走る100m、200m、400mなどを中心に、各競技のスピード感や躍動感が迫力を持って伝わってくる。特に、本書の山場とも言える4継(4人がバトンをつないで合計400mを走るリレー)では、手に汗握る大熱戦が展開される。
丁寧な人物描写も、物語に温かみを与えている。生き生きと描かれる登場人物たち、彼らが胸に抱えるまっすぐな想い。その1つひとつが、小説全体に流れる爽やかさを生み出し、読み手の心を強く揺さぶるのだ。
何かに、ひたむきに打ち込むこと。風のように疾走する新二や連を追ううちに、読者は、重たい現実を一瞬だけ忘れ、彼らと同じ風になることができるのだ。(小尾慶一)(引用終わり)

8月2日の練習内容 朝 ペース走(キロ4分半)20キロを含む24キロ
             夜 ジョグ10キロ
8月3日の練習内容 ジョグ10キロ

紹介文がよく出来ているのであまり付け加えることはないけれども、「本書の山場とも言える4継」は、実際にはピストルが鳴ってからフィニッシュまでたったの6行しかない。1走の主人公新二ですら 「隣のオオカミと一緒にうわっと飛び出した。ヤツはびゅんびゅん先に行き・・・。とにかく、気がついたら連がいて・・・気がついたら俺の手にはバトンがもうなくて。」と、わずか2行で終わっている。

このスピード感がいいのだ。書こうと思えば、たった1球投げるのに何分間も費やした「巨人の星」のようにもできるし、過剰を通り越して饒舌とさえ言える箱根駅伝の実況アナウンサーのようにもできる。しかし、実際のレースはあっという間に終わってしまう。走っている本人の意識も上記の2行ぐらいのものだろう。

もちろん、そこに至るまでの過程では、初めてのレースを前にした新二の緊張がこちらにまで伝わってくるほど生き生きと描かれている。それだけに、レースそのものはあっという間に終わってしまう短距離走の実相が、正確に読者に伝わってくるのである。

ところで、本書はかなり丹念に取材をして書かれたようで、次のような箇所にはランナーとして(短距離と長距離の違いはあるが)なるほどと膝を打つ思いをした。顧問の三輪先生の言葉である。

「背筋を伸ばして! 前を見るんだぞ。下を見ると背中が曲がるからな。まっすぐだ。まっすぐのイメージをしっかり持って。それじゃ、そっくり返りすぎだ。後ろに反ってもダメだぞ。脚全体を突っ張って、その上に腰を乗せる感じだ。足で地面を押して、返ってくる力で次へ行け。ストン、ストンというイメージだ」(47頁)

短距離も長距離も、「走る」という運動の基本は同じなのだ。

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