『一瞬の風になれ』第二部
冬のオフシーズンを経て、高校2年生に進級した新二。冬場のフォーム作りが実を結び、スピードは着実に伸びている。天才肌の連も、合宿所から逃げ出した1年目と違い、徐々にたくましくなってきた。新入部員も加わり、新たな布陣で、地区、県、南関東大会へと続く総体予選に挑むことになる。新二や連の専門は、100mや200mのようなショートスプリント。中でも、2人がやりがいを感じているのが4継(400mリレー)だ。部長の守屋を中心に、南関東を目指してバトンワークの練習に取り組む新二たち。部の新記録を打ち立てつつ予選に臨むのだが、そこで思わぬアクシデントが……。
第二部に当たる本書では、人と人の繋がりに重点が置かれている。新二と連の友情、先輩・後輩の信頼関係、新二と谷口若菜の恋愛模様。第一部で個々の人物を丹念に描き、読者に感情移入をうながしているだけに、皆の気持ちが1つになっていく姿は強く胸を打つ。特に、一人ひとりがバトンをつなげていく4継の描き方が素晴らしい。自分勝手と思えるほどマイペースな連が見せる、4継への、仲間で闘うことへの執着、意気込み。連のまっすぐな言葉に新二たちがはっとする時、その言葉は読み手の心にもストレートに届くのだ。
本書は、起承転結でいうところの、承句と転句。さまざまな事件、障害、葛藤を経て、スピードに乗った物語は、第三部のフィナーレへとなだれ込む。(小尾慶一)(引用終わり)
8月 9日の練習内容 LSD20キロ
8月10日の練習内容 ジョグ10キロ
第一部同様、大体この通りだが(笑)、若干補足すると、新二は守屋の後の部長になる。これはなかなかに難しいポジションだ。基本は個人競技である陸上だが、リレーはもちろんのこと、部全体の雰囲気や他の部員の活動ぶりが各部員に与える影響は大きいだろう。そうした人間関係についても温かい目で丹念に描かれていて好感が持てた。
また、後輩のひとりで、「ウェイト・トレーニングとサプリメントとスポーツ小物とを偏愛してる」桃内というのが大阪出身という設定で、「先輩、プロテイン飲まなあかんやないですか」などと、結構いい味を出している。(笑)
さて、例によってランナーとして参考になった箇所を引用してみる。
ハードル・ウォーク、ハードル・スキップ、プッシュ走、これでもかというほど繰り返しやった。いつもやる練習だけど、こんなにしつこく量をこなしたことはない。支持脚(地面についている足)が曲がらないように、正しい姿勢で地面に大きな力を伝え、その反力をきっちりもらえるように。もちろん、ただ回数をこなしゃいいってもんじゃないから、いちいち考えながらじっくりやる。走練習にしても、今はスピードは問題にしないので、ゆっくりした走りの中でチェックポイントを徹底する。身体の下で接地する。脚の上に腰と上半身を乗せる。下ろした足に乗せる。足裏全体に乗せる。遊脚(宙に浮いている足)を前に引っ張る――「プル」とみっちゃんは言う。「プルッ」タイミングを合わせて声が飛ぶ。「プルだ、プル!」何度も何度も指摘される。普通に道を歩いていても、みっちゃんのダミ声が頭の中で「プル!」と号令して、思わず歩幅をぐいと広げてしまったりする。(35頁)
「脚の返しを速くする」というのはどこかで聞いた覚えがあるが、「遊脚を前に引っ張る」イメージか。ストライドがもう少し伸びるかもしれない。試してみよう。
スパイクを脱ぎながら、さっきのレースを頭の中で再現しようとした。スタートからの加速があんなにうまくできたのは初めてだ。身体の感覚が残っている。ずっとイメージしながら走っていた――スタートでは仙波を、スピードに乗ってからは連を。
そう、スピード。身体に感じるスピードが絶対的に違っていた。風はともかくとして、やっぱり俺は10秒台で走ったと思う。速い。とにかく速い。それに、身体の力を使い切ったっていう、この感じ・・・。
未知の速さ、身体をフルに使えた感覚、どんなに気持ちがいいか! このスピードで走った奴にしか絶対わからない。正式に10秒台で走ると、もっと気持ちいいのかな。もっともっと速くなってタイムが伸びていくと、また違う感覚を味わえるのかな。すげえな。連や仙波はどんなふうに感じて走ってるんだ? スエツグは? ガトリンは? なんか頭がグラグラした。そういう未知のスピードについて考えるだけでグラグラきた。タイムは10分の1や100分の1秒のミクロの世界なのに、無限の宇宙空間でものぞきこんだような果てしなくデカい気分がした。
自分の体を誉めてやりたい。筋肉、細胞の一つひとつが愛しい。力がむくむく湧き上がってくる。どんなことでもやれちゃいそうな気がする。自分の中に大きな力がある。生まれて初めてそんなふうに思う。
追い風参考の俺のタイムは、10秒91。(192-3頁)
ああ、思い切り走りたくなってきた。(笑)
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