『臨場』
著者お得意の警察ものの短篇集で、いずれも異色の検視官倉石の常人離れした着眼点や、一見無愛想でいてその裏に深い人情味が潜む独特の個性を軸にして物語が展開するが、一冊の本としてみるとやや玉石混淆の感がある。
本格派推理ものの醍醐味を味わわせてくれる「赤い名刺」「眼前の密室」「真夜中の調書」や、毎年届いていた匿名の葉書から自らの出生の秘密に辿り着く「餞」などは十分に愉しめた。しかし、複数の事件を扱いながら、それらが最後まで相互に全く関連がないままに終わる「鉢植えの女」「黒星」などは、この著者にしては構成がやや雑な感じを否めない。
単行本化にあたり再構成・加筆を行ったというけれども、横山作品にしては珍しくまだ文庫化されていないのも、仕方のないことではないかと思う。さしものベストセラー作家も、締切りに追われる中で時には軽いスランプに陥るのだろう。
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