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2007/07/21

『ランナー』

410g992oifl__aa240_あさのあつこ著。ベストセラーになった『バッテリー』はまだ読んでいないが、題名に惹かれてこちらの方を読んでみた。アマゾンの紹介文。

「おれは走れないんじゃない、走らないだけだ、そう信じたくて、逃げちまったんだ」
長距離走者として将来を嘱望された高校一年生の加納碧李(あおい)は、複雑な境遇の妹を案じ、陸上部を退部することを決意した。だがそれは、たった一度レースに負けただけで走ることが恐怖となってしまった自分への言い訳だった。走ることから、逃げた。逃げたままでは前に進めない。碧李は、再びスタートラインを目指そうとする----。(引用終わり)

7月20日の練習内容 ジョグ10キロ
7月21日の練習内容 ペース走16キロを含む20キロ

内容は紹介文のとおり。さらに補足するなら、母の妹に対する児童虐待、陸上部のマネジャー杏子が監督の箕月に寄せる密かな思い、ハードル選手の久遠との友情など、碧李を中心とした様々な人間関係が絡んでいる。

この作品のテーマは、そうした人間関係の中での主人公の心境の変化、あるいは人間的成長であって、これは陸上競技をテーマにした本でもなければ、いわゆる青春スポーツ小説でもない。逃げたのは他のスポーツでも音楽でも何でもいいのである。韓国映画『マラソン』と同じことだ。

ただ、次のような箇所は一面の真理を突いているかもしれないと思った。『風が強く吹いている』に続く、ランナー限定立ち読みコーナーだ。(笑)

「長距離は好きだ。走り、走り、走り続けていくうちにあらゆるものが剥離(はくり)していく感覚が好きだ。記録だとか順位だとか表彰台だとか声援だとか結果だとか努力の証だとか、あらゆるものが剥(は)がれ離れ落ちていく。自分が透けて、記憶の古層が現れ、そこから快感が香りたつ。快感は、このまま未知のどこかに運ばれてしまうという恐怖に繋(つな)がり、未知のどこかに行けるのだという快感を新たに掻(か)き立てる。剥離していくことの、透けていくことの、未知に向かうことの快感と陶酔と恐怖を碧李は、薄の穂先に満たない背丈のころから知っていた。」(16頁)

「身体が温まってくる。走り始めると、身体を取り巻くものの一つ一つがそれぞれの存在を際立たせてくる。血の流れとか、心臓の鼓動とか、気道を滑っていく空気とか、大地の感触とか風とかグラウンドの湿り気とか匂いとか、みんな競うように鮮明になり、存在感を増してくる。そして、吸い込まれていくのだ。
 碧李は、身体を取り巻く全てが遊離し周りに吸い込まれていく感覚に自身を委ねる。無ではない。何かがある。自分という小さな核は、磨耗することも砕けることもなく確かに在(あ)るのだ。桜の花びらが散るように、核に纏いついていた諸々のものが落ちていく。どんなに愛しい者のことも、深い苦悩も、胸震える喜びも剥がれ、漂い、消えていく。妹のことも母のことも、はらはらと散っていく。
 走るとはそういうことだった。
 走り、走り、その果てに人の決めたゴールがある。人は走り続けることはできない。だから、終着点を決めるしかないのだ。ゴールを突き抜けさらに走れば、どんな風景が広がるのか。疼(うず)くほどに憧れもするけれど、今は到底、手が届かない。まずはゴールを目指す。」(144-5頁)

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コメント

はじめましておじゃまします。
あさのあつこは子供の影響でよく読んでいます
ランナーはまだ読んでいませんが、立ち読みしてきますね。
最近読む本のジャンルや作家が偏ってきて、新しいものに手が伸びにくくなっています。老化現象なんでしょうね。

投稿: オッカー | 2007/07/22 18:11

オッカーさん
お久しぶりです&当ブログにようこそ!

私もある作家が気に入ると、
暫くその人の本ばかり読む習性があります。

この作家は初めて読みましたが、
登場人物の性格や感情の描写が
非常に詳細で、しかも的確ですね。

投稿: まこてぃん | 2007/07/23 17:19

まこてぃんさん、今晩は たけしたです。
うーん 私も共感を覚えましたぁ。
なんだかまた走る勇気みたいなのがわいてきますぅ。

オッカーさん お久しぶりですぅ。
福知山で自己新って思ってましたが仕上がる様子もないので
伴走に逃げました(汗;)

でも 加古川ではなんとかします。

ではでは

投稿: たけした | 2007/07/23 19:38

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