『震度0』
紹介文にあるとおり、不破の失踪がN県警に与えた衝撃の広がり(これを最小限に食い止めようとするのがタイトルの謂れ)と、事件への対応を巡る県警幹部の利害と思惑の錯綜を、ドキュメンタリータッチで時々刻々と描いていく。
これに「公舎銀座」に住む部長夫人たちの駆け引きが絡み、さらにホステス殺人犯の追跡、4年前の選挙違反事件、大物フィクサーから本部長への賄賂、退職した婦人警官の過去と、よくぞこれだけ伏線を張れるものだと感嘆しつつ、頭の整理に何度も頁を繰り直した。これら全てが一点に収斂する結末はいつもながら鮮やかであるが、やや作為に過ぎると言えなくもない。
『クライマーズ・ハイ』『半落ち』でも感じたことだが、この著者の長篇は複数のテーマを絡めたような展開になっているものの、それら相互の関連がやや消化不良という感が否めない。本作でも、同じ日に起きた阪神大震災について、遠く離れたN県警の「震度0」と対比するという以上の踏み込みがなく、死傷者数などの統計数値でしか語られていないのは残念だった。
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