『影踏み』
紹介文にあるように、「ノビ師」と呼ばれる忍び込み専門の窃盗犯真壁修一が出所するところから物語は始まる。普通に考えればシャバに出た主人公がまた悪事を働き、それを警察が追い詰めるという話ではないかと予想したが、ものの見事に裏切られた。
確かに出所した真壁はまたぞろいくつかの「仕事」をこなすのだが、それぞれに彼なりの「理由」があってのことなのだ。それよりは、本書に出てくるシャバの人間の方がよほど悪人に思えてくる。窃盗犯やヤクザは当然(?)としても、堅気の人間でありながら職務上の地位を悪用したり、人の弱みにつけこんだりして金儲けを企むような輩が、次から次へと出てくるのである。
読み進むうち、これら悪人たちに体を張って立ち向かいながら、一方では昔からの恋人への思いを断ち切れないでいる真壁の方が、よほど真人間ではないのかとさえ思えてくる。殺伐とした印象の連作前半から一転して、後半ではひょんなことからサンタクロース役を引き受けることになる「使徒」や、空き巣狙いの死を知らせるべくその父親を探し回る「遺言」など、心温まるような話にすらなっている。
焼死した双子の弟啓二の声が真壁には聞こえるという設定が真壁の内面の葛藤を明らかにし、また7篇それぞれにあっと驚くような結末が用意されている。さすが人気作家だけに上手いものだと感心させられた。
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