『花見川のハック』
これでとうとう読み納めかと、噛み締めるようにじっくり読んだ。物語に引き込まれてページを繰っていくにつれて残りが少なくなっていくのが恨めしかった。掌篇12作を収めるが、西部劇映画がきっかけで親しくなった少年と老作家が自衛隊の輸送機を奪うに至る巻頭の「オクラホマ・キッド」から、読者はいきなり稲見ワールドに引きずり込まれる。
紹介にもあるように、本作品集は死を目前にした稲見が文字通り命を削るようにして書いたものだ。複雑なプロットの長篇は当然もう無理な話で、これらの掌編ですらストーリーに飛躍があったり、結末がやや尻すぼみだったりと、作品として未完成な印象を与えるものもある。事情が分かるだけに大変痛ましいが、それだけになおさら、稲見が死の床にあって最後まで言いたかったことが、直接に胸に響いてくる。合掌。
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