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2006/12/30

『風が強く吹いている』

Blowing三浦しをん著。新潮社刊。四六版で500頁を超える大作だが、長いとは全く感じなかった。それほど面白かった。今年読んだ本の中でも一ニを争う。まずは版元紹介。

走れ、「速く」ではなく「強く」。目指すは箱根駅伝。直木賞受賞第一作!
君だったのか、俺が探していたのは。走るために生まれながら、走ることから見放されかけていた清瀬と蔵原。二人は無謀にも陸上とは無縁だった八人と「箱根」に挑む。走ることの意味と真の“強さ”を求めて……。新直木賞作家の本領全開、超ストレートな大型青春小説。(引用終わり)

12月29日の練習内容 ジョグ10キロ
12月30日の練習内容 LSD36キロ

新潮社のサイトには上記紹介文に加えて、書評や立ち読みコーナーまであるので、本の大体の内容はそちらに譲ることにするが、高校陸上部の指導方針に反発して暴力事件を起こし、走ることの意味を見失いかけていた主人公・蔵原走(くらはら・かける)が、寛政大学に入学して清瀬灰ニと出会い、素人集団に混じって箱根駅伝に挑戦していく中で、走ることの本当の意味を学んでいくという物語である。「大型青春小説」というよりは、ある種のビルドゥングス・ロマンと言えるだろう。男ばかり10人の物語に彩りを添えるように、淡くて爽やかな恋愛の芽生えも上手く絡ませている。

物語の最後3分の1は、箱根駅伝のスタートからフィニッシュまで、舞台裏を含めて克明に描いている。携帯電話がこれほど威力を発揮する競技もないというのは意外な発見だった。ちょうどいい時期に読んだので、この正月は例年以上に熱心に駅伝をTV観戦するに違いない。(笑)

また、浮世絵風に10人のランナーと物語の情景を点描したカバー装画は秀逸である。さらに言えば、この小説は映画・ドラマ化にも向いていると思う。駅伝大会のロケは大変だろうけど。

以下、少し長くなるが、ランナーである読者として大いに感銘を受けた箇所を引用する。「ランナー限定」立ち読みコーナーである。

「長距離選手に対する、一番の褒め言葉がなにかわかるか」
「速い、ですか?」
「いいや。『強い』だよ」
 と清瀬は言った。「速さだけでは、長い距離を戦いぬくことはできない。天候、コース、レース展開、体調、自分の精神状態。そういういろんな要素を、冷静に分析し、苦しい局面でも粘って体をまえに運びつづける。長距離選手に必要なのは、本当の意味の強さだ。俺たちは、『強い』と称されることを誉れにして、毎日走るんだ」(159頁)

「きみたちは十二分に練習を積んでいる。あとはプレッシャーをやすりに変えて、心身を研磨すればいいだけだ。予選会でうつくしい刃になって走る自分をイメージして、薄く鋭く研ぎ澄ませ」
「詩的な表現だね」
 とユキが言い、
「でも、よくわかる」
 と王子は言った。「研ぎすぎて、予選会よりまえにポッキリいっちゃいけないし、研ぎが鈍くて、予選会当日にまだ曇っているようでは話にならない。そういうことですよね?」
「そのとおりだ」
 清瀬はうなずく。「この加減ばかりは、闇雲に練習していてもつかめない。自分の内面との戦いだからだ。心身の声をよく聞いて、慎重に研いでいってほしい」
 そうか、と走は思った。長距離に要求される強さとは、ひとつにはこういうことを言うのかもしれない。(216頁)

「彼らのもうひとつの勘違いは、勝てばいいと思っているところだ」
 と、藤岡はつづけた。「日本人選手が一位になれば、金メダルを取れば、それでいいのか? 断固としてちがうと、俺は確信している。競技の本質は、そんなところにはないはずだ。たとえ俺が一位になったとしても、自分に負けたと感じれば、それは勝利ではない。タイムや順位など、試合ごとにめまぐるしく入れ替わるんだ。世界で一番だと、だれが決める。そんなものではなく、変わらない理想や目標が自分のなかにあるからこそ、俺たちは走りつづけるんじゃないのか」
 そうだ。走は、もやもやが晴れていくのを感じた。こういうことに、俺は引っかかり、怒りを覚えたんだ。藤岡はすごい。走の感じたこと、言いたかったことを、いともたやすく解きほぐして言葉にしてしまった。(253頁)
(中略)
 思いを言葉にかえる力。自分のなかの迷いや怒りや恐れを、冷静に分析する目。藤岡は強い。走りのスピードも並ではないが、それを支える精神力がすごい。俺がただがむしゃらに走っているときに、きっと藤岡は目まぐるしく脳内で自分を分析し、もっと深く高い次元で走りを追求していたのだろう。(255頁)

綺麗事を言うつもりはない。走るからには、やはり勝たなければならないのだ。だが、勝利の形はさまざまだ。なにも、参加者のなかで一番いいタイムを出すことばかりが勝ちではない。生きるうえでの勝利の形など、どこにも明確に用意されていないのと同じように。(422頁)

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コメント

まこてぃんさん。

引用されている部分。どれも私の心に深く残っている部分です。
まこてぃんさんのような高速ランナーと同じ場所に心を動かされていたんだなと言うのが、なんだか嬉しいです。

今年も強いランナー目指して頑張りたいと思います。

投稿: こうめ | 2007/01/10 10:54

こうめさん
早速のコメント、ありがとうございます。
北海道マラソンで3時間30分台のこうめさんは
既に十分「強い」「高速ランナー」の部類でしょう。

ただ減量や健康のためだけでなく、
何かを目標に走っているランナーなら
誰しも共感できる文章ですね。

次の Run! Run! Run! の感想も楽しみにしています。

投稿: まこてぃん | 2007/01/10 17:35

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 箱根駅伝の常連校である拓大は、一昨年、予選会で実タイムでは9位だったが、インカ [続きを読む]

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