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2006/10/20

『イン・ザ・プール』

Pool奥田英朗はこれで3冊目。ドナルドさんも偶然最近読まれたばかり。表紙はクールでミステリアスな印象だが、内容はかなり異なる(笑)。まず版元紹介。

どっちが患者なのか? 精神科医伊良部のもとを訪れた悩める者たちは、その稚気に驚き、呆れ……。今、注目の新鋭が放つ連作短篇集
精神科医・伊良部一郎。彼のもとを訪れる悩める者たちは、誰もが驚き呆れます。「どっちが患者なのか?」。水泳中毒、ケータイ中毒、慢性勃起症状……、患者たちは稚気溢れる伊良部の姿に、己の深刻なる悩みがバカらしくなり、やがて──。現代世相の病理を、コミカルかつ軽妙な筆致で描き出した怪作(!)です。(引用終わり)

10月19日の練習内容 インターバル1キロ×6本(3分45秒)を含む12キロ
10月20日の練習内容 ジョグ10キロ

伊良部総合病院の神経科はどういうわけか地下1階にある。ここからして普通でない。担当医の伊良部一郎は「長嶋監督みたいな甲高い声」を出す40代の太った男で、初対面の患者にも平気でタメ口を利き、「カウンセリング? 無駄だって。そういうの。生い立ちも性格も治らないんだから、聞いてもしょうがないじゃん」と言い放つ。そして、彼は実は注射フェチでマザコンなのだ。

看護婦がまたすごい。若く、茶髪の彼女は部屋の隅の机で週刊誌に読み耽り、患者が入ってきても目もくれない。しかし、実は露出狂で、注射を打つ時にわざと患者に太ももが見えるように白衣の前をはだけたりするのだ。

5篇に登場する患者はそれぞれに心身の異常を感じてやってくるのだが、自分よりも異常とすら思える伊良部の素っ頓狂な言動に最初は面くらう。しかし、言わば「毒をもって毒を制す」とでも言うのか、一旦は突き放されたようでも、結局のところ答えは自分の中にしかないことが次第に分かってくる。自分の症状が相対化、客観化されて、本当の原因が見えてくる。そして、最後は治っていくというストーリーだ。

現代人が抱える心の病気も、原因そのものは単純なのに、それを自ら隠蔽しようとしたり、他のことでカムフラージュしようとしたりすることから、こじれてしまうものなのかもしれない。そこに気付かせるのが最も有効な治療法だとしたら、伊良部先生は一種のショック療法でそれを実現してしまう、実に有能な神経科医なのかもしれない。

ちょっと小難しくなってしまったが、5篇ともスラスラと楽しく読める極上のエンターテインメントだ。長篇サスペンス、OLものに続いて、著者の芸域の広さを実感させられた。

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