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2006/10/11

『邪魔』

奥田英朗著。この作家は初めてだ。自転車ツーキニスト疋田さんのメルマガでこの作家の最新作『ガール』が紹介されていて面白そうだったので、取り敢えずは文庫化されたこの作品から読んでみた。私の読書に主体性というものは全くないのである(苦笑)。版元紹介文は以下のとおり。

及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供2人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴1年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。
九野薫、36歳。本庁勤務を経て、現在警部補として、所轄勤務。7年前に最愛の妻を事故でなくして以来、義母を心の支えとしている。不眠。同僚・花村の素行調査を担当し、逆恨みされる。放火事件では、経理課長・及川に疑念を抱く。わずかな契機で変貌していく人間たちを絶妙の筆致で描きあげる犯罪小説の白眉。
2002年版「このミステリーがすごい!」第2位
第4回大藪春彦賞受賞
(引用終わり)

以下、ネタバレ注意。

10月10日の練習内容 完全休養
10月11日の練習内容 軽いビルドアップ10キロ

何となく、以前からこういう設定の作品を読んでみたいと思っていた。「こわいもの見たさ」とでも言うのだろうか。自分自身平凡なサラリーマンで、郊外の住宅地の戸建住宅に家族と共に暮らし、それこそ平凡だがそこそこの生活を営んでいるけれども、そういう生活が根底から崩れていく危険の芽は至るところに潜んでいるのだ。会社のリストラ、家族の病気、子供の非行やいじめ、火災、交通事故・・・。考えてみると「平凡な生活」というのはある種の奇蹟の上に成り立っているとも言えるのだ。

この作品では及川恭子の夫は会社での不正な経理処理が発覚することを恐れ、放火事件を起こしてしまうが、警察からいとも簡単に狂言であることを見抜かれ、追い詰められた挙句、カモフラージュのための第2、第3の放火までする。

かつてはカーペットの染みがきれいに取れたことに「小さく満足」するような平凡な主婦だった恭子は、夫への疑惑から底知れない不安に苛まれ、勤め先のスーパーでの待遇改善を要求する共産党系の運動家たちと行動を共にすることで、不安から逃避しようとする。

半ば自暴自棄に陥った恭子の変容ぶりが痛ましい。スーパーの前で自らマイクを握ってアジ演説をして、見せしめに倉庫係に替えられても肉体労働を厭わない。煙草も吸い始め、言葉遣いまで変わっていく。叩き上げのスーパーの社長と渡り合って一歩も引かない。煮え切らない夫を糾弾する啖呵は胸がすく思いがした。思わず「頑張れ、恭子!」と叫びたくなったが、よく考えると立場が逆のような気もする(笑)。

ただ、ミステリー小説としては、「犯人」である茂則の内面が描かれていない(描くほどのものがない?)のと、結末がやや消化不良に終わった感が否めない(九野の義母は死んだはずだという話はどうなったのか?)のが残念だ。非行少年たちの行動、花村の素行調査、スーパーの待遇改善など、伏線に当たる部分が少し煩雑な感じもしたが、読んでみて損はなかったと思う。

続いて『ガール』『イン・ザ・プール』を読む予定。

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