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2006/07/01

『山月記』

中島敦著、岩波文庫所収。昔、高校の国語の教科書で読んだ微かな記憶があるが、最近ラジオでアナウンサーの朗読で聞いて感銘を受けたので読み直してみた。

主人公の李徴は博学才穎(さいえい)、若くして科挙に合格したものの、詩家として名を成そうと官を退き、ひたすら詩作に耽るが、文名は容易に揚らず、生活は苦しくなるばかり。旅の一夜、ふと目を覚まし戸外で我が名を呼ぶ声を追って山林に入っていくうち、李徴はいつしか虎に変身してしまう。

唐代の怪異譚に取材し、これを再構成したものだが、李徴が虎になった原因は、彼の生来の倨傲とそのかげに潜む「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」という矛盾した内面的分裂にあるとする。こうした心中の猛獣を飼いふとらせたあげく、自己の外形までそれに相応しいものに変えてしまったというのである。この李徴の悲劇が擬漢文調の透徹した文体で綴られている。

山中を行く旧友に偶然再会した李徴は、虎の姿を見せないように草の陰から旧友と会話をするうち、最後に自らの悲運を歌った即席の漢詩を披露する。その場の粛然とした空気を、作者は次のように表現している。

「時に、残月、光冷やかに、白露は地に滋(しげ)く、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々はもはや、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄倖を嘆じた。」

鳥肌が立つような描写である。最後の別離のシーンも泣かせる。文庫本10頁にも満たない短篇だが、何度繰り返し読んでも色褪せることのない名文章、名作である。

7月1日の練習内容 ウォーキング2時間

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