『神の火』
またまた髙村薫の作品。『リヴィエラを撃て』再読後、たまたま書店で文庫本を目にして衝動買いした。図書館の本のように2週間というノルマがないので、上下2冊で2か月近くかかってしまった。前半はなかなか筋が掴めず、何度も行きつ戻りつしたせいもある。カバーの紹介文は次のとおり。
原発技術者だったかつて、極秘情報をソヴィエトに流していた島田。謀略の日々に訣別し、全てを捨て平穏な日々を選んだ彼は、己れをスパイに仕立てた男と再会した時から、幼馴染みの日野と共に、謎に包まれた原発襲撃プラン〈トロイ計画〉を巡る、苛烈な諜報戦に巻き込まれることになった…。国際政治の激流に翻弄される男達の熱いドラマ。全面改稿、加筆400枚による文庫化。(上巻)
〈トロイ計画〉の鍵を握るマイクロフィルムを島田は入手した。CIA・KGB・北朝鮮情報部・日本公安警察…4国の諜報機関の駆け引きが苛烈さを増す中、彼は追い詰められてゆく。最後の頼みの取引も失敗した今、彼と日野は、プランなき「原発襲撃」へ動きだした―。完璧な防御網を突破して、現代の神殿の奥深く、静かに燃えるプロメテウスの火を、彼らは解き放つことができるか。(下巻)
今回もネタバレはないはず。(笑)
6月17日の練習内容 ペース走20キロ(キロ4分40~45秒)を含む24キロ
全体の構成は上記紹介文のとおり、北朝鮮に拉致されたロシアの青年スパイ「良」を取り戻す交換取引が予期せざる結果に終わるところまでが長い前段で、存在そのものが地球上から抹消されたに等しい主人公島田が、良の遺志を継いで音海原子力発電所(大飯原発がモデルと思われる)を襲撃し、原子炉圧力容器の蓋を開けるというとんでもない計画を実行するところがクライマックスになる。
例によって、どうやって調べたのか想像もできないくらい徹底的なディテールを伴って描かれる原発内部の様子と、それに対する用意周到な襲撃の一部始終には圧倒された。髙村薫の作品は一部映画化されたものもあるが(『マークスの山』『レディ・ジョーカー』)、この作品は『リヴィエラを撃て』とともに、まず映画化不可能な部類に入るだろう。ストーリーからして電力会社の協力が得られる見込みのない中で、最大の見せ場の原発襲撃シーンを撮影することは物理的に言って無理だからだ。
蛇足ながら、島田をスパイに仕立てた江口という男がなかなか魅力的なキャラクターだ。ギリシャ、ローマの古典文学から西洋美術、オペラに通じ、いつも磨き上げたアルマーニの靴を穿いて現れるという白髪の紳士であるが、実体はソヴィエトのスパイなのである。江口と島田が大阪福島のザ・シンフォニーホールで、某ソプラノ歌手が歌うモーツァルトのアリアを聴くシーンがあるが、偽装工作を企てる2人の会話との落差が大変印象的だった。これに影響されて、チェチーリア・バルトリのモーツァルトのCDを2枚、図書館で借りてきて、今これを書きながら聴いている(笑)。
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