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2005/11/11

『リヴィエラを撃て』

『レディ・ジョーカー』『マークスの山』と読んで来た髙村薫の3冊目は、四六版上下2段組で547頁もの超大作。2週間に亘り毎日重い本を持ち運ぶのに難儀した。まずは版元紹介から。ただし、単行本は既に絶版らしく、以下は文庫本のもの。

顔のないスパイ《リヴィエラ》は誰だ――。日本が生み出した国際諜報小説の最高傑作。 1992年冬の東京。元IRAテロリスト、ジャック・モーガンが謎の死を遂げる。それが、全ての序曲だった――。彼を衝き動かし、東京まで導いた白髪の東洋人スパイ《リヴィエラ》とは何者なのか? その秘密を巡り、CIAが、MI5が、MI6が暗闘を繰り広げる! 空前のスケール、緻密な構成で国際諜報戦を活写し、絶賛を浴びた傑作。日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞受賞。(上巻)

流血につぐ流血。見え隠れする米中密約の影。国際謀略の波に翻弄される人々の運命は? CIAの《伝書鳩》とともに、父の仇である《リヴィエラ》を追っていたジャック。複雑怪奇な謀報機関の合従連衡。二重・三重スパイの暗躍。躍らされる者たち。味方は、敵は誰か。亡命中国人が持ち出した重要書類とは?ジャック亡き後、すべての鍵を握るピアニストは、万感の思いと、ある意図を込めて演奏会を開く。運命の糸に操られるかのように、人々は東京に終結する。そして……。(下巻)

以下、若干ネタバレ。

11月10日の練習内容 ジョグ10キロ
11月11日の練習内容 ジョグ10キロ

都合十数人もの犠牲者を出した一連の事件の経過は約20年もの歳月に及ぶ。北アイルランド、ロンドン、東京を主な舞台に、IRAのテロリスト、英米の諜報機関員とその配下のスパイ、ロンドンと東京の各警視庁の警察官など、それぞれに魅力ある登場人物たちが繰り広げる攻防は、二重三重の伏線が張り巡らされ複雑極まりないが、読み応えとしては十分。人物や街の風景などのディテールも恐ろしいほど徹底している。

当初はストーリーを追いかけるのに苦労し、何度も前のページを繰ったりしたが、72年の香港での出来事を暴こうという勢力と、逆にこれを覆い隠そうという勢力の間の隠微かつ残忍な抗争、個人的な復讐心からその対立に巻き込まれてしまったIRAのテロリスト、さらに殺人犯の検挙に血道を上げる警察当局という全体の構図が分かってからは、一気に読む進むことができた。

しかし、最後の最後になって「リヴィエラ」から明かされた真相は更に複雑怪奇で、大ドンデン返しにあった感がある。もう一度最初から読み直したら更に深く味わえるだろうが、いかんせん単行本では重すぎる。どこかで安く文庫本が入手できればいいのだが。

ところで、上の紹介文にあるとおり、作品中の重要なシーンとして、主要登場人物のひとりであるピアニスト、ノーマン・シンクレアがウィーン・フィルの東京公演でブラームスの協奏曲第2番を演奏し、その直後客席にいた「リヴィエラ」に歩み寄るくだりがある。このシンクレアの行動は大きな誤解、いや、もっと大きな陰謀に嵌められた結果であったことが後に判明するのだが、ここで言いたいのはそのことではない。

小説の中で、この協奏曲の詳細な説明があり、各楽章ごとの音楽の流れが実に見事に描写されているのだが、残念なことにいくつかの誤りがある。

第一に、ウィーン・フィルの楽団員がステージに登場するところで、「やがて舞台に楽器を手にした正装の男女が溢れた」となっているが、小説で設定された90年代初頭には、まだウィーン・フィルに女性団員は一人も存在しなかった。初めての女性ハープ奏者が入団するのは97年まで待たねばならない。

第二に、指揮者とピアニストが登場するところで、「楽屋口から指揮者が姿を現し、数秒遅れてソリストも現れた」となっているが、クラシックのコンサートで曲目が協奏曲の場合、まずソリスト(独奏者)が最前列から華々しく登場し、指揮者は少し遅れて奥の方から控え目に出てくるのが通例である。過去3ケタの数の演奏会に通ってきた私が記憶する限り、一度の例外もない。余談だが、「のだめカンタービレ」第5巻でも、指揮者シュトレーゼマンの後からソリスト千秋真一がステージに向かうシーンがあったが、これも現実にはありえない。

第三に、「第三楽章のアンダンテは、ヴィオラの奏でる主題が美しかった」とあるが、これはチェロの誤りである。CDによっては首席チェロ奏者の名前が表記されているものもある。

別に揚げ足取りをするつもりはない。小説の本筋とはあまり関係のない、クラシックファン以外にとってはどうでもいいような話だ。(笑)

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